研究課題/領域番号 |
16K05420
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
黒江 晴彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (40296885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン・フラストレーション / 不純物効果 / マルチフェロイック物質 / 交叉相関 / 磁歪 / 磁気熱量効果 / 等エントロピー曲線 |
研究実績の概要 |
Zn 置換した Cu3Mo2O9 の,磁化プラトーが観測される温度・磁場領域での,磁気熱量効果を使って測定した等エントロピー曲線と,Cu3Mo2O9 のパルス磁場中での縦磁歪・横磁歪と,W 置換した Cu3Mo2O9 の磁気的性質を,日本物理学会や国際会議(HFM2016,台湾)で報告した。 磁気熱量効果を用いた等エントロピー曲線の測定は,広い磁場・温度領域で磁場-温度相図を描くのに優れる。熱容量の小さい薄膜温度計とパルス強磁場を組み合わせ,試料への熱流入を最小化した測定が可能となった。Cu3Mo2O9 の低磁場で,磁気・誘電測定から求めた相図と比較し,磁場誘起相転移による等エントロピー曲線の変化を確認した後に,Zn 置換した Cu3Mo2O9 での等エントロピー曲線を解析し,不純物効果を研究した。Cu3Mo2O9 では 2 K, 8 T で観測された磁化のジャンプを伴う磁場誘起誘電転移が,Zn 0.5% 置換試料では消失した。この試料では磁化プラトーが生じる磁場が低磁場側にシフトした。Zn 5.0% 置換試料では,等エントロピー曲線が劇的に変化した。特筆すべきは,磁場変化に伴う試料温度の変化が観測されない状態,すなわち無秩序状態が観測されたことである。試料に導入された乱れにより,秩序状態が抑制される事が期待される。 パルス磁場中での縦磁歪・横磁歪には,磁歪プラトーとも呼ぶべき状態が観測された。ゼロ磁場での格子定数を基準とした磁化プラトー領域での結晶歪は0.1%にも達した。これは,Cu3Mo2O9 の磁性が,格子系と強く結合している事を示唆している。この事は,外部磁場によるスピン配列の変化が,スピン・フラストレーション効果より優勢となる事で,結晶格子がそれに合わせて歪んだものと解釈できる。 また,Ni 置換試料の単結晶育成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気熱量効果の測定は順調である。今後は不純物置換量や不純物の種類をを系統的に変化させることが課題である。 磁歪プラトーと呼ぶべき磁歪が磁場に殆ど依存しなくなる領域を発見した事は大きな成果である。一方,磁化プラトーが観測された磁場での磁歪の大きさの定量評価には問題が残る。低磁場での精密測定を行う必要がある事が課題である。 ファラデー法を用いた飽和磁場までの磁化測定は,試料の準備が出来なかったため今年度は実施できなかった。連続固相反応法で育成した Cu3Mo2O9 単結晶試料には,直径十マイクロメートル程度の小さな穴が多数開いている。熱間等方圧加圧加工によりその穴を小さくし,数を減らしたのだが,今度は酸素が不純物として結晶に取り込まれることで磁気的性質が変わってしまうなど,課題を多く残した。
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今後の研究の推進方策 |
磁歪の定量評価のために,低磁場で動作する磁歪測定系を準備し,Cu3Mo2O9 の磁歪を測定する。測定にはキャパシタンス法を用いる事を検討する。 系統的に不純物濃度を変化させた Ni 置換系の単結晶試料を準備し,磁化プラトー領域の磁気測定・誘電測定を行い,不純物効果を研究する。 現在動作していない熱間等方圧加圧炉を修理し,加工時の雰囲気ガスを調整して,結晶に空いた穴を除去しつつ,試料に不純物酸素が取り込まれない条件を探索する。振るべきパラメータは,処理温度・保持時間・降温スピードである。修理が困難な場合には,熱間等方圧加圧処理を外注する事を検討する。 国際会議3件(SCES2014, LT28)と,学会発表2件以上(日本物理学会)での発表を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,クローズド・サイクル・クライオスタット本体を購入する事を計画しました。然しながら,修理での対応のみで当初計画を凌ぐ性能のクライオスタットが入手可能となったために,次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
現在,低磁場での磁歪の精密測定を行う事が必要となっています。そこで,本年度に修理したクローズド・サイクル・クライオスタット内にいれるプローブの開発費用に充当いたします。具体的には,低温動作するピエゾ・アクチュエータを購入する事を計画しています。
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