研究課題/領域番号 |
16K05421
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
小島 憲道 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (60149656)
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研究分担者 |
岡澤 厚 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30568275)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピンクロスオーバー / 電荷移動相転移 / 混合原子価 / メスバウアー分光 / 連結異性 / 動的スピン平衡 / 光異性化 / 光誘起相転移 |
研究実績の概要 |
配位子場がスピンクロスオーバー領域にある鉄混合原子価錯体A[Fe(II)Fe(III)X3](A = cation, X = dto(C2O2S2), mto(C2O3S))において、X = dtoではスピンと電荷が連動した電荷移動相転移が発現し、X = mtoではFe(III)O3S3サイトで高スピン状態と低スピン状態が極めて速い時間スケールで交替する動的スピン平衡現象が発現する。これらの系では、dtoおよびmtoの硫黄原子および酸素原子はそれぞれ柔らかい塩基および硬い塩基であることから、反応溶液中においてdtoおよびmtoが反転して連結異性を部分的に起こし、磁気特性などの物性現象に影響を及ぼしている。 平成29年度は、鉄混合原子価錯体A[Fe(II)Fe(III)X3](X = dto, mto)における連結異性の発現とその制御をメスバウアー分光法により調べた。硫黄原子が配位したFe(III)サイトおよび酸素原子が配位したFe(II)サイトをそれぞれ57Feで置換した錯体を合成し、連結異性の生じる条件を定量的に調べた。その結果、合成温度および溶媒の条件によっては溶液中において、架橋配位子のdtoが反転してdtoの酸素原子がFe(III)に結合し、硫黄原子がFe(II)に結合する連結異性(Fe(III)-S2C2O2-Fe(II))を部分的に起こすことを明らかにした。また、連結異性(Fe(III)-O2C2S2-Fe(II))を起こした状態で錯体が析出すると、Fe(II)S6(S = 0)およびFe(III)O6(S = 5/2)の状態が形成されるが、この状態は室温付近では熱力学的に不安定なため、固体状態で電荷移動を起こしてFe(III)S6(S = 1/2)およびFe(II)O6(S = 2)となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位子場がスピンクロスオーバー領域にある鉄混合原子価錯体A[Fe(II)Fe(III)X3](A = cation; X = dto (C2O2S2), mto (C2O3S))の系統的な物質開発とメスバウアー分光法による物性研究を行ってきた。その結果、dto錯体およびmto錯体とも、架橋配位子が180°反転する連結異性現象が合成条件に著しく依存することを見出し、連結異性を抑制した合成条件を確定することができた。平成29年度の研究結果は最終年度である平成30年度の研究につながるものであり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に、鉄混合原子価錯体A[Fe(II)Fe(III)X3] (X = dto, mto)において連結異性の発現を抑制した合成条件をメスバウアー分光法により確立することができたが、最終年度にあたる平成30年度は、連結異性の発現を抑制したA[Fe(II)Fe(III)X3] (X = dto, mto)を用いて下記に示す研究を推進する。 ①配位子場がスピンクロスオーバー領域にある種々の集積型金属錯体A[Fe(II)Fe(III)(mto)3] (M = Mn, Fe, Co, Ni, Cu)を開発し、Fe(III)O3S3サイトの動的スピン平衡現象による磁性イオン間磁気相互作用の揺動が生み出す特異な磁気秩序状態および原子価揺動を研究する。 ②光異性化分子である様々なスピロピラン(SP)を対イオンとして導入した (SP)[Fe(II)Fe(III)(dto)3]の単結晶を合成し、SPの光異性化に伴う構造変化とSPの配向変化が引き起こす光誘起電荷移動相転移の機構を研究する。
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