研究実績の概要 |
3個の硫黄原子と3個の酸素原子がFe(III)イオンに配位したサイトでは、基底状態として低スピン状態(S = 1/2)と高スピン状態(S = 5/2)が拮抗し、57Feメスバウアー分光の時間スケール(10-7 s)より速い時間スケールで高スピン状態と低スピン状態が入れ替わる現象(動的スピン平衡)が発現することが期待される。この系では、Fe(III)O3S3サイト内で起こるスピン状態の動的スピン平衡と隣接する磁性イオン間に生じる磁気相互作用の揺動が連鎖する物性現象など、未開拓の物性現象の発現が期待できる。平成30年度は、この目的を遂行するため、種々の集積型金属錯体A[M(II)Fe(III)(mto)3](A = (CnH2n+1)4N, etc.; M = Mn, Fe, etc.; mto = C2O3S)を開発し、Fe(III)O3S3サイトの動的スピン平衡現象が金属イオン間磁気相互作用の揺動と磁気相転移に及ぼす効果について研究を行った。 特に、Ph4P[Mn(II)Fe(III)(mto)3]においては、Mn(II)サイトとFe(III)サイト間の磁気相互作用がFe(III)サイトの動的スピン平衡のため10-7秒より速い時間スケールで強磁性相互作用と反強磁性相互作用が交互に働いていること、この動的スピン平衡と連鎖する磁気相互作用のフラストレーションのため、この系は2段階の特異な磁気相転移を起こすことを明らかにした。30 Kで起こる磁気相転移では、Mn(II)スピンのみ磁気整列し、Fe(III)スピンは動的スピン平衡のため常磁性のままであること、23 Kで起こる2段階目の磁気相転移でMn(II)スピンとFe(III)スピンがともに磁気整列することを磁気測定およびFeメスバウアー分光測定で明らかにした。
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