1.銅鉱物ボルボサイトは層状のカゴメ格子から成る、多彩な磁性と熱ホール効果を持つ物質である。格子形状から来る相互作用の競合(いわゆる幾何学的フラストレーション)が強く、これら磁性および熱ホール効果の起源の理解が難しかった。この系には格子のひずみがあり、空間対称性の低下から弱いジャロシンスキー‐守谷相互作用が存在する。格子のひずみによりスピンが三つ組構造をとることに着目し、低温における磁性を記述する有効模型を構築した。特に、ジャロシンスキー‐守谷相互作用が及ぼす効果を調べた。有効理論の解析から、零温度における磁場中の相図を求めた。系に内存する擬1次元性と幾何学的フラストレーションの効果により、ごく弱いジャロシンスキー‐守谷相互作用が多彩な磁性を決定することが分かった。また、このジャロシンスキー‐守谷相互作用が、磁気励起(マグノン)にトポロジカルな特性を与え、有限温度の常磁性状態における熱ホール効果を起こすことを示し、実験のふるまいを再現した。 2.ダイマーにより構成される2次元の2層系磁性体において、磁気フラストレーションの効果により出現する新奇な量子磁性状態の解析を行った。各ダイマー内相互作用が強磁性的である場合に、競合するスピン2体のハイゼンベルグ相互作用だけを含むスピン模型において、零磁場下でスピンネマティック相が有限のパラメータ領域に安定に出現することを、摂動計算および大規模多変数変分計算により明らかにした。また、このスピンネマティック相は、モデルの相互作用のパラメータ空間内に存在するSU(4)対称点から湧き出ていることを示し、スピンネマテイック秩序の新しい発現機構を明らかにした。SU(4)対称点の周りには、SU(4)対称操作により結び付けられるスピンネマティック相、ベクトルカイラル相、磁性秩序相、ダイマー相が、安定に存在することが分かった。
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