研究課題/領域番号 |
16K05426
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小野田 繁樹 国立研究開発法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 専任研究員 (70455335)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | スピン液体 / スピンアイス / フラストレートスピン系 / 理論 |
研究実績の概要 |
幾何学的フラストレーションをもつパイロクロア格子上の量子スピンアイス、カゴメ格子上のスピン模型を対象に、量子スピン液体や非自明な秩序相の実現可能性を解析・数値計算を駆使して理論的に追及した。 量子スピンアイス系では、スピンアイスモノポールが励起エネルギーギャップをもった準粒子スピノンとして、モノポールを運ばない仮想的光子励起と結合しながら量子的に運動するというU(1)量子スピン液体が実現することが我々の理論計算からすでに分かっている。しかし、U(1)量子スピン液体の候補物質はPr2Zr2O7くらいに限られ、Yb2Ti2O7ではスピノンがボーズ凝縮した強磁性相にあることが分かっているものの、その量子的励起スペクトルは理論・実験ともに解明を急がれている。我々は、ゲージ場の量子論描像に基づいた解析から、ゲージ平均場近似を格段に改良し、絶対零度における一般的な量子スピンアイス系に対する相図を提示するとともに、中性子散乱、電子スピン共鳴などの種々の励起スペクトルを計算した。本成果については論文投稿準備中である。また、[111]磁場下のスピンアイス系は、パイロクロア格子の三角格子面のスピンが磁場に平行に向き,カゴメ格子面のスピンが2-in, 1-outないし1-in, 3-out構造をとるカゴメアイスとして振る舞うことが知られている。しかし、その最も簡単化された量子スピンアイス模型での振る舞いは調べられていない。我々はこの模型に対する量子モンテカルロ計算から、各[111]カゴメ格子面状において、単位格子を3倍にした共有結合固体(Valence Bond Solid)が実現する可能性が強いことが分かった。本成果について論文を執筆し投稿した。無限に長いトーラス上でのiDMRG法でも同様の結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所期の目標である有限温度での量子モンテカルロ計算が順調に進み、[111]磁場中でのパイロクロア量子スピンアイスに関する論文投稿も済ませている。またその一方で、有限温度アルゴリズムの限界を認識したため、絶対零度アルゴリズムの開発に取り組み、これをほぼ完了させ、U(1)量子スピン液体やValence Bond Solidの基底状態の波動関数の(トポロジーを含む)性質を探査する準備が整っている。また、量子スピンアイスに関するゲージ場の量子論についても枠組みが完成し、基底状態に関する理論の論文、中性子散乱実験との共著論文の執筆に取り掛かっている。これらを鑑みると極めて順調に進捗していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度にほぼ枠組みを確立した、量子スピンアイス系に対する、ゲージ場の量子論的手法を用いた絶対零度の相図の論文を執筆・出版する。また、これを幅広く有限温度にも拡張し、有限温度の相図を描き、論文にまとめる。非弾性中性子散乱実験との共著論文をまとめ、出版する。ゲージ場の量子論の方法を拡張して、[111]磁場中の量子スピンアイスにおける段階的な相転移の解析的な理解を与える。 既に投稿済みの[111]磁場中の有限温度の量子スピンアイスの理論論文を出版する。これを拡張してPr2Zr2O7に対応する相互作用定数を持つ模型を解析し、論文にまとめる。また、絶対零度での効率的な量子モンテカルロ法の開発に関する論文を、負符号のないカゴメ格子模型に適用し、論文を執筆投稿する。同時に、iDMRG計算をすすめ、両者の結果を比較検討する。さらにこの絶対零度量子モンテカルロ法をパイロクロア量子スピンアイス系に適用した計算を進める。 当初、量子スピン液体基底状態のトポロジーの研究には、Tensor networkに基づいた新しい数値計算アルゴリズムを用いる計画であった。しかしごく最近、Machine Learningと呼ばれる最適化法を活用した量子モンテカルロ計算が目覚ましく発展してきており、Tensor network法では限界のある3次元系や、負符号問題への取り組みさえも進められている。そこで、昨年度に開発した絶対零度量子モンテカルロ法をさらに拡張して、負符号問題を持ついくつかの系の基底状態の解明に挑戦する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主に、在米の研究協力者の招聘、および、研究代表者の渡米の予定が、都合により次年度以降に延期になったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
前年度から繰り越した分は、次年度以降、主として、研究の進捗状況と双方の都合に合わせて、在米の研究協力者を招聘するためと、研究代表者が渡米するために使用する。また、前年度に投稿した論文の出版料の支払いに使用する。
|