研究課題
幾何学的フラストレーションのために対称性の破れが抑制されたカゴメ格子磁性体や、それを内包するパイロクロア格子磁性体では、長距離トポロジカル秩序を示す量子スピン液体相が実現することがすでに理論的に示されている。これらの量子スピン液体、および、その近傍で顕在化する性質を理論的に探究した。当該年度は、特にU(1)トポロジカル秩序を示すU(1)量子スピン液体を含んだパイロクロア量子スピンアイス系のデバイス構造において、そのU(1)トポロジーに由来する新しい現象を理論的に発見した。これはU(1)トポロジーの検出手段、さらには、磁性体の磁化の超低消費電力制御のための革新的指導原理にもなりうると考えられるものである。これらの成果について、特許を申請するとともに論文を投稿した。昨年度に確立していた、従来のゲージ平均場近似を系統的に超越したゲージ場の量子論的枠組みの定式化についても、同論文にまとめた。この枠組みは量子スピン液体に関する今後の理論研究の基礎となる重要なものである。パイロクロア量子スピンアイス系の一つであるYb2Ti2O7に対する中性子非弾性散乱について、実験結果の解析、および、ゲージ場の量子論に基づく理論解析を進め、統一的な理論的理解がようやく得られるに至った(論文準備中)。[111]方向に磁場を印加したパイロクロア量子スピンアイス模型の有限温度量子モンテカルロ計算の結果、特に、モノポール超固体相とカゴメ共有結合固体の発見について、前年度に投稿していた論文を出版した。
2: おおむね順調に進展している
連携研究者(上田)と進めていたProjected Entangled Simplex State (PESS)に基づくカゴメ格子磁性体の計算は先行研究が出始め、新規性が失われた。また、この手法の現時点での限界も露呈した。現時点で3次元パイロクロア格子系に具体的に適用して模型の性質を精査することは困難で、さらなるアルゴリズム開発が必要と思われる。その一方、ゲージ場の量子論的手法に基づく解析については、既存のゲージ平均場近似を系統的に改善し、今後の量子スピン液体に対する理論的解析的研究の礎となる枠組みを確立できた。
パイロクロア・カゴメ格子磁性体などにおける量子スピン液体について理論研究を進めていくが、当初の計画の一つであるPESSに基づいた数値計算についてはアルゴリズム開発が優先されるため、本研究の推進手段ととしてはひとまず断念せざるをえない。そこで解析手段としては、当初の計画していた3つのうち、これまで極めて順調に進んでいる残り2つ、ゲージ場の量子論的手法、および、量子モンテカルロ法を用いる。パイロクロア量子スピンアイスについては、(1)当該年度に投稿した論文の出版、(2)Yb2Ti2O7の中性子非弾性散乱の解析の論文を投稿・出版、(3)U(1)量子スピン液体のU(1)トポロジーに起因した新しい現象のさらなる理論的探索を目指す。また、これまでに確立した量子スピン液体のためのゲージ場の量子論的手法をカゴメ格子系に適用することを目指す。
連携研究者のひとりであるTrinanjan Dattaをアメリカから招聘する予定だったが、当人の健康上の理由で招聘ができなかったため。次年度に健康状態が回復し、招聘可能になった際には当人の招聘のために使用する。招聘が困難となった場合には、国際会議・ワークショップ等のための国外出張旅費や、その他の研究協力者の招聘・派遣、論文投稿料などに使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
Physical Review Letters
巻: 119 ページ: 227204
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.119.227204
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20171114_1/
http://www.riken.jp/en/pr/press/2017/20171201_2/
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/riken_research/2018/rr201803.pdf