研究課題/領域番号 |
16K05429
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野地 尚 東北大学, 工学研究科, 助教 (50180740)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インターカレーション / FeSe / 遷移金属ダイカルコゲナイド |
研究実績の概要 |
超伝導転移温度Tc が8 Kである鉄系超伝導体FeSeに、アンモニアと金属を共挿入(コインターカレーション)すると、FeSe層間距離dが伸長し、Tc は43 Kに上昇した。本研究では、FeSeに対して、これまでの研究例が極めて少ないコインターカレーションをおこない、dをより伸長させて高いTcをもつ超伝導体の創製を目指す。dをより伸長させるために、種々の有機分子(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニルエチルアミン)とアルカリ金属をコインターカレートした試料を作製し、dとTcの相関を調べた。その結果、d < 8 Åではdが伸長するとTcが上昇し、d > 8 Åではdの長さによらずTcは一定になることが分かった。この結果は、スピン揺らぎの寄与によって電子対が形成されていると仮定し、FeSe系インターカレーション超伝導体のTcと電子キャリアドーピングまたはdとの関係を計算したGuterdingらの理論計算の結果とよく一致した。また、本研究で作製した試料を用いた核磁気共鳴の実験においても、スピン揺らぎの寄与を支持する結果となった。以上のことから、FeSe系超伝導体の電子対の形成には、スピン揺らぎが寄与していると結論した。 他方、遷移金属ダイカルコゲナイドMSe2 (M=Ti, Mo)に対しても、同様のコインターカレーションを試み、いくつかの新規超伝導体の合成に成功した。これらの物質のフェルミ準位における状態密度D(EF)とTcの相関を調べ、D(EF)の大きい試料においてTcが高くなる結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、FeSeに対してコインターカレーションをおこない、dを伸長させて高いTcをもつ超伝導体の創製を目指した。FeSe層間に有機分子とアルカリ金属をコインターカレートすることで、大きなd値を持つTc = 39 - 45 Kの新規FeSe系インターカレーション超伝導体の合成に成功した。Lix(C8H11N)yFe1-zSeはFeSe系インターカレーション超伝導体において最大のd値(19.04 Å)を有している。dとTcの相関を調べた結果、d < 9 Åではd値の伸長とともにTcが上昇し、d > 9 Åではd値によらずTcはほぼ一定になることが分かった。d = ∞と見なせるFeSe単層膜において、電気抵抗の測定によりTcが 35 - 40 Kであるという報告が複数存在し、FeSe系インターカレーション超伝導体のTcの上限値が45 K程度であることから、FeSe系超伝導体のTcの上限値は45 K程度であると結論した。 遷移金属ダイカルコゲナイドにおいても、コインターカレーションにより新規超伝導体の合成を目指した。その結果、TiSe2に対してLiとエチレンジアミンのコインターカレーションによりTc =4.2Kの新規超伝導体の合成に成功し報告した。
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今後の研究の推進方策 |
FeSe系インターカレーション超伝導体において、Tcが一定になるd > 8 Åの領域において、キャリア濃度によりTcを制御できるというバンド計算による理論的示唆がなされた。つまり、キャリアドープでTcを上昇させることができる可能性を示唆している。そのため、高温、高圧での反応であるソルボサーマル法を用いて、アルカリ土類金属をエチレンジアミンに溶かし、キャリア高濃度のインターカレーション試料の合成を試みる。 遷移金属ダイカルコゲナイドMSe2 (M=Ti, Mo)に対しても、ソルボサーマル法を用いてキャリア高濃度試料を合成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額は、研究を効率よく行ったことに伴い発生した未使用額である。 (使用法) 平成30年度の物品費として使用する。
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