研究課題
本研究は、ミュオンスピン回転法により、BEDT-TTF系層状有機物質のゼロ磁場下ミクロ磁性研究を推し進めるものである。この系ではNMRなどの強磁場下磁性研究が比較的盛んであるのに対して、中性子回折実験がほとんど不可能であることも相まって、ゼロ磁場下でのこのような研究例が少ない。特に、本研究では、対象試料を重水素化(有機分子BEDT-TTFの末端のエチレン基の水素原子を重水素原子に置換して、その分子を用いて試料を合成すること)し、電子スピンによるミュオン回転スペクトルをより抽出しやすくし、さらに核磁子由来のスペクトルを解析することにより試料のミュオンサイトを議論するものである。本年度は、数種類の重水素体試料を合成し、将来のミュオン実験に備えるとともに、そのうち一つの系では、スイスのポールシェラー研究所にて、ミュオンスピン回転実験を行った。この系は、組成の異なる一連の混晶試料であったが、実験の結果、すべての試料に対して良好なスペクトルが得られた。ただし、この研究成果の解釈に関して、現在、検討の必要性を感じている状況である。それは、この研究と平行して、磁化測定による磁性研究も行ったが、磁気構造に関して、これまで知られていなかった新たな知見が得られたためである。この磁化測定の研究を早急にまとめあげ、その結果とミュオンスピン回転実験の結果を比較検討し、成果をまとめたいと考えている。また、本研究では、多くのBEDT-TTF系試料を合成したが、そのうちいくつかは、ミュオンスピン回転法以外の実験に関する共同研究を展開しており、成果もでつつある。
2: おおむね順調に進展している
試料合成など、準備研究は順調に進んでおり、ミュウオン実験のマシンタイムも新たに獲得することに成功している。ミュオンスピン回転法に密接に関連する磁化測定でも投稿論文に値する成果がでていいる。また、昨年、ミュオン実験の新たな候補物質を選定し、ミュオン実験のマシンタイムの獲得を目指した。複数課題の申請であったためか、残念ながら、この新たな系に関する課題は受理されなかった(従来の物質に関する実験は受理された)が、引き続き課題申請して、マシンタイムの獲得を目指したい。このように、研究対象がより広範に広がっている。また、この実験以外の複数の共同研究も進行中であり、すでに投稿論文になったもの、現在論文投稿中のものが3報程度ある。
本研究の主要な研究対象物質は、κ型BEDT-TTF塩であるが、これに関する研究を本年度と来年度で完了させるべく、注力したい。平行して、新たな系に関する実験も進めたい。この新たな系の試料合成はすでに行っており、磁化測定、電気抵抗測定、熱測定なども行っているが、十分な試料を合成しミュオン実験にも備えたい。
年度末に一万円程度の少額予算があまったが、年度末に使用するよりも、年度をあけて使用したほうがより有効に使用できると考えたため残した。
薬品の購入などにあてる予定である。
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Phys. Rev. B
巻: 95 ページ: 085149 1-5
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J. Phys. Soc. Jpn.
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http://dx.doi.org/10.7566/JPSJ.85.024710