研究課題
前年度の研究により、層状強相関系有機物質の中でも中心的な物質であるk-ET2Cu[N(CN)2]Clという反強磁性体のゼロ磁場磁気構造を、磁化測定と数値シュミレーションにより決定することに成功した。同時に、これまで知られていたこの物質の磁化の振る舞いが、実は、前例のない磁場誘起スピン再配列転移であることも明らかにした。これらの成果は、この年度に日本物理学会の欧文誌に掲載されたが、Editor's Choiceに選定され、News and Commentsにもとりあげられるなど、高く評価されている。この年度には、これらの内容を和文誌である固体物理にも投稿し、掲載されている。さらに、同様の研究手法により、Cl塩と質的には同じ反強磁性体であると考えれていたd8-k-ET2Cu[N(CN)2]Brが、Cl塩とは異なるゼロ磁場磁気構造をとることが明らかになった。これは、これまでの常識を覆す重要な知見である。これらの成果を受けて、再度、これら両物質、及びこれらの物質の間に位置する混晶物質で、ゼロ磁場muSRを測定した。muSRの実験結果が、これら二つの物質のゼロ磁場磁気構造の違いを明確にとらていることがわかった。また、このゼロ磁場磁気構造の変化は、d8-k-Brの極く近傍で生じていることもわかった。以上の結果は、有名なkappa-型ET塩の温度磁場相図上の反強磁性相には、実は、二つの磁気相があることを示唆しており、20年来の常識を覆す可能性がある。また、磁気構造が判明したことにより、muSRの解析をさらに進めれば、ミューオンサイトを決定できる可能性がある。当初計画していた、ネール温度以上での、重水素化による核磁子により緩和の違いを利用する方法と、このネール温度以下での情報により、ミューオンサイトの決定という重要課題を実現できる可能性が高まった。
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固体物理
巻: 54 ページ: 43-51
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 87 ページ: 064701~064701
https://doi.org/10.7566/JPSJ.87.064701