研究課題/領域番号 |
16K05434
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山浦 淳一 東京工業大学, 元素戦略研究センター, 特任准教授 (80292762)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導 / 構造秩序 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、鉄系超伝導体 LaFeAsO1-xHxの高ドープ側で発見された新しい超伝導母相(磁気/構造秩序相)の出現の起源を探ることである。母相の基底状態は超伝導電子対の形成機構と密接に関係しており、その物性を詳細に調べることで、鉄系超伝導の起源に迫ることができると考えられる。 平成28年度は、合成に成功した微小単結晶を用いて、反転対称中心有無を確定する実験を行なった。これまでは、母相における反転対称中心の破れは、粉末X線回折の結果のみで、より明確な証拠が必要であった。放射光を用いた吸収端付近の実験により、バイフィット対の反射強度をチェックし、確かに、高ドープ側(x = 0.58)試料において、反転対称中心が破れていることに起因するバイフィット対の強度差を観測した。 次に、平成29年度以降の計画であったが実験技術に進展があったので、計画を前倒しして、LaFeAsO1-xHxの広い組成における高圧下精密粉末構造解析を行った。この物質は、x = 0.18の組成で、常圧下18 Kの超伝導転移温度が、6 GPa圧力下で52 Kまで劇的に上昇する。鉄系超伝導体一般に、鉄ニクタイド四面体が正四面体に近いほど、超伝導転移温度が高いという経験則が広く知られている。しかし、本物質では、その経験則とは全く逆の効果、つまり、加圧とともに鉄砒素四面体が歪むことを見い出した。続いて、x = 0.51における第二母相が圧力によってどうなるかを調べたところ、1.5 GPaという低圧で消失していることが判明した。これは、x = 0にある第一母相が圧力に鈍感であることと非常に対照的である。x = 0.18における超伝導転移点の上昇は、この消失した第二母相の揺らぎが重要な役割を果たしているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の予定は、高純度の結晶作製、放射光X線を用いた精密な粉末結晶構造解析 、単結晶構造解析、第一原理電子状態計算であった。このうち、高純度結晶作製に部分的に成功し、単結晶構造解析に至った。放射光を用いた良質の粉末構造解析用データも取得済みである。現在、慎重に解析を行っているところである。電子状態計算までは至っていないが、高圧構造解析を前倒しで行い、非常によい結果を得た。従って、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、引き続き粉末構造解析を進めると共に、非弾性X線、非弾性中性子実験からソフトモードの観察を試みる予定である。申請時に予見したとおり、高ドープ側の超伝導母相は、鉄系超伝導体の中でも非常に特異的な性質を持っていることが明らかになりつつある。今後とも、最初に予定した実験を順次実行していけばよいと考えている。さらに余裕があれば、希土類を別のSmに変えた場合の第二母相の性質なども調査していく予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
結晶作製が順調に進み、単結晶構造解析による反転対称中心の破れの観測を優先させたためと、粉末測定用装置の設計変更を行ったため、次年度に予定した装置を購入することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
装置設計の変更は完了しており、平成29年度前半で、よい精度で測定できる装置を購入する。
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