高温超伝導体では、母相-スピン/電荷/格子などの秩序相-を起源とする揺らぎが、超伝導のクーパー対形成をドライブしていると考えられている。従って、どのような揺らぎが存在するかを調査することが、超伝導機構を理解する鍵となる。水素置換鉄系超伝導体LaFeAsO1-xHxは、x = 0と0.5付近に2つの反強磁性母相とそれに隣接した超伝導相を有する。特に、x = 0.5付近の第二母相は、空間反転対称性を失った極性金属状態(強誘電的金属状態)にあり、その特異な揺らぎと超伝導の関連は非常に興味深い。 本研究では、これまで、X線回折、X線吸収端近傍スペクトル(EXAFS)を用いて、LaFeAsO1-xHxの高ドープ域 (x = 0.35~0.51) における平均構造と局所構造を調査してきた。X線回折からは、構造相転移のはるかに高温から格子対称性の低下―ネマチック状態―を見出した。EXAFSからは、この極性構造の有無を局所的に観測するよいprobeであることを提案し、構造相転移から第二超伝導相の組成において、はるかに高温から局所的反転対称性の破れ-極性(強誘電的)揺らぎが存在していることを発見した。この格子対称性の低下と極性揺らぎは、母相の構造歪と一致しているため、その揺らぎを母相の外側の広い温度組成範囲で観測したことになる。従って、極性金属の揺らぎが超伝導と関連している可能性を提示したと考えている。 さらに最終年度では、2つの超伝導相における磁気抵抗測定を強磁場下で実施し、詳細な解析の結果、バンド間遷移と上部臨界磁場の明確な違いを見出した。両者の超伝導の性質が異なることを意味している重要な結果を得た。その他、低温下で光照射下における局所構造変化を検出する実験を試みた。わずかに変位が観測された。
|