研究課題/領域番号 |
16K05437
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
伏屋 雄紀 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00377954)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピン軌道結合 / ディラック電子 / k.p理論 / ビスマス / IV-VI族半導体 |
研究実績の概要 |
当初計画に即して,次の研究を行った. (B)-2,3 前年度までに得られた結果に基づき,スピン軌道結合の強い物質系で成り立つ非常に一般的なハミルトニアン「拡張Wolff模型」を導出,その半無限系における表面状態についての厳密解を得ることに成功した.さらに,当初計画には含まれていなかった有限膜厚系の表面状態についても解析解を得ることに成功した. (C)-1 拡張Wolff模型をBi1-xSbxの具体的な場合に適用し,その表面状態を調べた.表面状態におけるエネルギーギャップの膜厚依存性について,今回得られたわずか2種類の変数を含む解析解と20種以上の変数から得られる数値シミュレーションの結果とが完全に一致し,解析解の強力さを明示することができた. 得られた解析解と実験を比較し,80nm程度以下の膜厚では,トポロジカルに自明な表面状態と非自明なものが全く区別できないことを明らかにした.さらに,トポロジカルな性質を決定づけるための実験について提案を行った. 当初計画に含まれていない,次の発展的研究も行った. (A)-2’ スピン軌道結合の強い系におけるゼーマンエネルギーの計算法として,従来の摂動論的アプローチとは全く異なる,数値的に厳密な計算手法を新たに開発した.これにより,第一原理計算から出発し,磁場中エネルギーを数値的厳密に計算することが可能となった.(D) 当初計画ではバルクおよび表面における磁場中電子状態を明らかにすることのみに課題を絞っていたが,より実験を多角的に検討するため,新たにディラック電子系の電気伝導度計算も行った.特に,表面を想定した二次元系における弱局在について調べ,有効スピン軌道結合の効果により,スピン拡散長が従来理論より長くなることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(A)-2’ 当初計画段階では,マルチバンドk.p理論からゼーマンエネルギーを導出するには,Lowdin partitioningを用いた摂動論的アプローチしかないと考えていた.しかし今回,摂動論を用いず,数値的厳密にゼーマンエネルギーを求められる計算手法の開発に成功した.ゼーマンエネルギーを求める手法については,世界的に見ても摂動論的アプローチしか採用されてこなかったことを考えると,今回の数値的厳密計算法の開発は,当該分野において一つの突破口を開いたといえる. (B)-3, (C)-1 当初計画段階では,表面状態については,半無限系のもののみを調べる予定であった.しかし多くの実験は薄膜を用いていることから,半無限系のみならず薄膜系の表面状態も調べた.薄膜系の計算は半無限系よりもさらに複雑(解析的に解くべき行列の大きさが倍)であったにもかかわらず,解析解を得ることに成功した.計画では,半無限系ですら解析的に解くのは困難で,数値計算を用いようとしていたことから考えれば,大きな進展である.結果的に,スピン軌道結合の強い系では表面局在長が非常に長くなることから,膜厚依存性が従来予想に比べ非常に強いことが明らかとなり,膜厚依存性が実験を解析する上で重要な判断材料になることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
(C) 平成29年度までの本研究により,Bi1-xSbxのバルクと表面状態の理論結果が一通り出そろったことになる.これに基づき,実験で観測されているトポロジカルな性質の問題解明に挑む.Bi1-xSbxのバルク電子状態については新たな実験が行われているので,それについてより詳しい解析を行う. 強スピン軌道結合のほかの物質としてIV-VI族半導体(PbTeやSnSeなど)を取り上げ,これらについてバルクおよび表面電子状態を調べる.現在進行中の強磁場実験との比較/解析を行う. 様々な物質を俯瞰して,結晶スピン軌道結合の効果の普遍的性質を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたコンピュータのモデルチェンジにより,購入を差し控えたため.
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