本計画の目的は,(A)バルクと(B)表面におけるスピン軌道結合の効果をそれぞれ調べ,最終的に(C)バルクと表面を総合するスピン軌道結合の効果の理解を得ることであった.最終年度の今年度は,(C)の段階に進み,研究全体を総括する研究を行った. (C)近年爆発的な研究が進められているトポロジカル絶縁体の分野において,最初に3次元トポロジカル絶縁体の候補物質として提案されたのは,BiSb合金である.最初の提案(2007年)以降,熱心に研究が進められた結果,現在新たにBiSbのトポロジーが本当に当初提案通りか否かについて,活発な議論が繰り広げられている.議論の焦点は,Biはバルクの性質がトポロジカルに自明と理解されている一方,表面状態は非自明を示唆する実験結果が得られていることである. この問題は,本研究のこれまでの研究を総括する,格好の対象である.これまでの理論に基づいて,バルク測定(量子振動測定)を通して,物質のトポロジーを決定する方策を新たに提案した. (D)当初計画には含まれていなかったが,(A)の研究を進める上で,磁気抵抗についての新しい公式を得ることに成功した. 従来のボルツマン理論に基づく磁気抵抗の理論では,物質の異方性を反映するのは,フェルミ面が楕円体の場合に限られていた.任意のフェルミ面についての理論もいくつか存在したが,それらはいずれも弱磁場極限に制限されていた.今回,磁場の行列表現を用いることで,任意の形状のフェルミ面に対して,強磁場まで計算できる,新たな公式を導出した.この公式を用いて,(D-1) ビスマスの磁気抵抗,(D-2) SrTiO3の磁気抵抗を計算し,実験と定量的に一致する結果を得た.特にSrTiO3は,単一の閉じたフェルミ面しかない場合においても,十分大きな横磁気抵抗が現れることを示し,これまで謎とされてきた実験を定量的に説明することができた.
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