研究実績の概要 |
BiTeX(X=Cl, Br, I)は、空間反転対称性のない結晶構造をもつ極性半導体である。Cl組成は常圧でトポロジカル絶縁体であり、またBrとI組成では数万気圧以上で非自明なトポロジカル絶縁体が発現する。本研究では、トポロジカル絶縁体域での圧力誘起超伝導の探索及び高圧相の構造解析に基づいて物性の理解を目指した。最終年度はBiTeBrの構造解析で主に結果が得られた。加圧による回折像の変化がBiTeIと異なるために別の高圧構造の可能性も含めて検討したが、結果的にはBiTeIの高圧相の構造モデルに基づきBiTeBrの解析を行うことができた。常圧相Iから高圧相II及びIIIにかけての相転移過程は両者で異なる。BiTeIはIとII、及びIIとIIIの共存領域は最大でも~5万気圧程度で、II, IIIの単相が得られる。これに対して、BiTeBrでは~7万気圧から始まる構造変化でIIとIIIはほぼ同時に形成するとみられ、8万気圧付近で測定した回折像には残存するI相に加えて両高圧相からの反射が存在する。どちらも常圧結晶相IはTe-Bi-I(Br)の三層を一ユニットとしてc軸方向に積層している。我々が提案する構造モデルでは、II相ではこのユニットはまだ残存するが、III相では層間距離としてユニット内外の差はなくなる。ゆえに、両物質の変化の差異はBi-I/Br間の結合力の差に依るものと推測される。研究期間を通して、BiTeClで観測された超伝導は分光測定から高圧相に起因するとみられることが判明した。また、BiTeBrとBiTeIにおける超伝導転移は本課題研究で観測した圧力範囲では発現せず、より高い圧力が必要であることを示した。BiTeBrとBiTeIでは既報とは異なる高圧相の構造モデルを提案することができ、この構造を基に計算へと展開されれば本物質群の電子状態の議論へと貢献できると考えられる。
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