研究課題
H29年度は典型的なスピンクロスオーバーコバルト酸化物であるLaCoO3の中間温度域でのスピン状態についての知見を得るために単結晶X線構造解析および電子顕微鏡による構造評価を行った。それにより、本物質はこれまでの報告にあるように三方晶あるいは単斜晶の構造をもつことがわかったが、構造決定にはより詳細な調査が必要であることがわかった。着目すべき点は明確になったので、収束電子回折法と結晶学的ドメイン観察により、結晶構造を明らかにすることができると考えられる。また、本試料の電子顕微鏡観察試料の準備において、あたらしい構造相がイオンビームにより生成することがわかった。この構造相の構造を高分解能走査透過電子顕微鏡法により明らかにした。この構造相はバルク体では未報告のものであり、準安定な化合物であると考えられる。この研究結果については現在、論文作成中であり、学会発表も予定している。スピンクロスオーバーと構造相転移が同時に起こると考えられている二重ペロブスカイト型コバルト酸化物については、希土類サイトのイオン種を変化させることで、物性の変化を観測し、スピンクロスオーバーと結晶構造の相関について調査した。希土類サイトのイオン半径を小さくすると、幅広い酸素含有量で3倍の超構造相(332相)が安定化することがわかった。スピンクロスオーバーは光により誘起されることがあり、構造との相関が強い場合、光誘起構造相転移が期待されるが、二重ペロブスカイト型コバルト酸化物についても光誘起構造相転移の可能性を調査した。本物質についても光照射により構造が変化することを見出し、スピン状態と構造の強い相関を実証した。この研究結果については連携研究者のグループを中心に国際会議をはじめ、いくつかの学会で発表し、現在、論文作成中である。
2: おおむね順調に進展している
LaCoO3について、低温と室温での単結晶X線構造解析を行ったが、X線構造解析のみでは、スピン状態と構造の関係を根拠をもって議論することが困難であるとの結論に達した。RBaCo2O5+d (0=<d=<1) において、R=Eu, Gdの系における332相の相転移については、両系ともに構造相転移とスピン状態転移が同時に起こることをH28年度までに明らかにしている。これらよりイオン半径が小さい希土類元素でRサイトが占められる物質の相転移を調べるために、R=Tbの多結晶体と単結晶を作製し、構造と物性の評価を行った。なお、精緻に相変化を観測するため、酸素含有量dはTbBaCo2O5に対してトポタクティック反応を起こさせることで調整し、試料準備を行った。酸素含有量が0<d=<0.5のものを合成することができ、それぞれについて構造相転移と磁気物性を評価した。その結果、幅広いd値で332相が安定化することを見出し、さらにdの比較的小さい332相と比較的大きい332相では高温安定相が異なることを見出した。現在、その磁性と構造の相関をスピンクロスオーバーの観点から調査している。EuBaCo2O5.38単結晶について、光誘起構造相転移の観測を試みた。光照射により明確な相転移を観測するには至っていないが、酸素のサイト間ホッピングを示唆する構造変化など、いくつか興味深い現象を観測している。La1-xPrxCoO3の系について、x = 0.3 試料のフローティングゾーン法による単結晶の育成を行った。多結晶試料と同様に、低温で構造相転移を示すことがわかり、現在、低温相の構造解析を単結晶X線回折を用いて行っている。また、電子顕微鏡を用いて、温度可変での回折実験と組織観察を行った。構造相転移に伴い、双晶構造が劇的に変化した。現在、分光法も併用して、スピン状態と構造相転移の相関を調査中である。
本研究の重要な課題の一つであるLaCoO3の中間温度域のスピン状態については引き続き結晶学的な観点から検討を行う。中間スピン状態をとり、かつ静的な軌道秩序をもつ場合は結晶構造の対称性の観点から存在の有無を決定できる。これと双晶構造など組織構造にも着目し、検討を行う。また、静的な軌道秩序が見出されなかった場合、電子エネルギー損失分光法を用いて、スピン状態の検討を行う。対称性の評価や分光法による評価は既に研究報告があるが、現在の技術を用いれば、より決定的に評価できるものと考えている。二重ペロブスカイトコバルト酸化物についてはR=Tbの系における構造相転移とスピンクロスオーバーの詳細について構造解析と磁気測定および分光学的手法により検討する。それにより二重ペロブスカイトコバルト酸化物のスピンクロスオーバーと構造相転移について包括的に理解する。さらに二重ペロブスカイトコバルト酸化物については光誘起による構造、物性変化について引き続き調査を行う。バルクでの現象の観測と同時に電子顕微鏡でのその場観測も検討する。La1-xPrxCoO3の構造相転移とスピンクロスオーバーの相関について、調査を進める。本系についてはPr置換量xに応じて転移点が変化する構造相転移を見出しているが、各構造相でのスピン状態については検討が不十分である。磁性と併せて分光法などを併用することでスピン状態について評価し、構造との相関を検討する。また、本系については外場印加によるスピン状態および構造の制御を試みる。たとえば光照射によりスピン状態に変化を与え、構造相転移を誘起することを試みる。以上により、コバルト酸化物のスピンクロスオーバーと交差相関について新しい知見を得て、コバルト酸化物におけるスピンクロスオーバーの共通点や特異な点を整理し、まとめる。
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