電子間引力の弱い系における超伝導を良く記述する理論である弱結合理論(BCS理論)では記述が不十分な、引力の強い電子系が示す超伝導体における磁場下での超伝導揺らぎの理論を進めることが本研究の目的であった。近年盛んに実験的調査が進められつつある鉄系超伝導体 FeSe が主な研究対象である。この系では、異常に強い磁場下の超伝導揺らぎ効果を示唆する磁化測定データが早期に見いだされ、冷却フェルミ原子系の超流動に関連して発展したBCS-BECクロスオーバー域の超伝導に該当する系となっている可能性がある。磁場下の強結合超伝導揺らぎ現象を記述するには、粒子数保存の式に現れるボゾン数による寄与に式の上で発散が生じるため、この発散を物理的な理由から回避するための繰り込み操作が必要となる。この困難があるために磁場下の強結合超伝導の一般論はこれまで開発されていなかった。今回、この困難を回避する一方法として、化学ポテンシャルはゼロ磁場下で決まっているというゼロ磁場超伝導転移温度近くの弱磁場域で正しいという条件下で超伝導揺らぎをフルにとり扱う磁場下の強結合超伝導の理論を開発し、進めた。そして、平成31年度(令和元年度)には特に、この強結合超伝導揺らぎにより磁場下の渦糸状態での相図(渦糸相図)に反映される、BCS理論に基づく従来の超伝導揺らぎの理論による結果との本質的な違いに主に着目して、揺らぎを含んだ磁場中相図を詳細に調べた。その結果、FeSe では実験的に十分追及されていないが、これまでのデータから渦糸格子の融解温度が比較的Hc2から離れていない一方で、揺らぎ現象がHc2線からかなり高温側から始まるという特徴が、BCS-BECクロスオーバー域の系にあるという指摘とコンシステントであることが分かった。
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