研究課題/領域番号 |
16K05447
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 智史 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40587466)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 分子性導体 / 電荷秩序 / スピン液体 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
Pd(dmit)2,Pt(dmit)2分子をアクセプターとする電荷移動型の分子性導体では、分子がダイマーを形成し実効的に1電子サイトあたり1つの電子が存在するHalf-Filledの電子系が形成される。Pd(dmit)2分子系では、主に反強磁性秩序状態が基底状態として得られるが、一部の物質およびPt(dmit)2系では量子スピン液体相に隣接する形で電荷秩序状態が実現する。Half-Filled系の電荷秩序の形成機構が典型的な1/4-Filled系の電荷秩序の形成機構と同一であるかについてや、この電荷秩序相と隣接相である量子スピン液体相との関係は未解明である。本研究の目的は、これらの電荷秩序を示す物質およびその類似物質の電荷秩序挙動を多角的熱測定により明らかにすることにある。研究の初年度にあたる今年度は、熱起電力測定装置と熱伝導度測定装置の開発と電荷秩序関連物質の低温磁場下熱容量測定に取り組んだ。 500 μm級の単結晶を用いた測定が可能な熱起電力測定装置および熱伝導率測定装置を開発した。非磁性化を伴う電荷秩序転移が報告されているEtMe3Sb[Pt(dmit)2]2では、非磁性化近傍温度で熱起電力のkinkのみが観測され、電荷秩序形成に相当する熱起電力の大きな変化が低温で非磁性化温度より50 K程度低い温度で観測されることを見出した。この結果は、他の混晶塩における熱容量挙動と合致する結果であり、磁化率測定以外から本系における電荷秩序を評価する重要な指針である。量子スピン液体物質と電荷秩序物質の混晶塩の低温磁場下熱容量測定では、相図上において電荷秩序相から十分に離れた量子スピン液体相領域においては、低温磁気熱容量の顕著な磁場依存性は観測されないが、電荷秩序相境界に近づくと通常の常磁性的な振る舞いとは異なる磁場依存性を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の要点は、従来Pd(dmit)2系の電荷秩序転移の評価に用いられてきた磁化率測定に加えて、熱容量測定,熱起電力測定,熱伝導度測定を組み合わせた測定によりHalf-Filled系の電荷秩序の特徴を明らかにすることにある。特に、熱容量測定における電荷秩序転移の相転移挙動と磁化率測定における相転移挙動が異なることの詳細を熱起電力測定・熱伝導度測定などの熱容量測定とは異なった視点の熱測定により解明することを特徴としている。よって、電荷秩序の形成に対して敏感な測定手法の特定および測定装置の開発が重要となる。本年度は、熱起電力測定装置および熱伝導度測定装置の開発に成功し、また、熱起電力測定が本系の電荷秩序形成の評価に対して有効であることを確認した。さらに、得られた結果は熱容量測定の結果と一致する可能性が高いことを見出した。これらは、研究計画段階において予想した結果と一致している。また、低温磁場下の熱容量測定においては、電荷秩序―量子スピン液体相境界近傍においてのみ観測される低温熱容量の磁場依存性を観測した。これは、電荷秩序状態と量子スピン液体状態の関係性を解明するうえで重要な知見を与える結果であると考えている。これらの結果より、当初の計画は順調に進行しており、かつ、新たな知見も得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
現在研究は順調に進行しており、基本的には当初の予定通り、熱起電力測定と熱伝導度測定による電荷秩序の評価を継続して行う。また、熱起電力測定では2つの温度で異常が観測されるなど、本系の電荷秩序転移には少なくとも2つの特徴的温度が存在することがわかっている。このため、熱容量測定において現実的に熱異常を観測できる比較的低い温度領域で電荷秩序形成に伴う何らかの異常が期待できる混晶塩系の熱起電力を精密に測定し、熱容量と比較することで熱起電力形成機構の詳細に追跡する。また、熱容量測定によって得られた磁場依存性は、量子スピン液体と電荷秩序のどちらでもない不完全な電荷秩序状態に近い状態の存在を示している可能性がある。この現象を詳細に追跡するため10 T以上の強磁場下における低温熱容量測定を行い電荷秩序状態と量子スピン液体状態の関係性について明らかにしていく。さらに、これらの結果が熱伝導度測定においてどのように反映されるかについて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
精密熱測定を研究基盤とする本研究計画において、精密な温度コントロールは研究の振興における重要な課題である。次年度に購入予定であった温度コントロールシステム(Lakeshore 社 LS350)について、より精密にコントロールできる可能性がある新システムLS372型が発売されたため、デモ測定を行ったうえで研究計画により良い装置の購入を検討しており、新システムの購入の検討および新システムに合わせた測定環境を整えるために次年度の初期に使用する経費として次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
温度コントロールシステムデモ測定の結果、LS372型(新型)が従来のシステムLLs350型に比べて飛躍的なコントロール性能を持っていた場合には、LS372型を購入する。従来型とあまりかわらない結果であれば、当初の計画通りLs350を導入し、研究計画通りに助成金を使用していく計画である。
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