研究課題/領域番号 |
16K05448
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水島 健 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ワイル超伝導 / 超流動3He / 輸送現象 / ワイル粒子 / カイラル異常 |
研究実績の概要 |
ワイル超流動体及び超伝導体のカイラル異常に起因した特異な量子現象を明らかにした。超流動3He-A相はワイル超流動体であり、低エネルギーBogoliubov準粒子はワイル粒子として振舞う。また、ウラン系化合物はワイル超伝導体の候補物質として知られている。通常のワイル粒子系では、電磁場が直接カイラリティと結合することで負の磁気抵抗効果やカイラル磁気効果など特異な応答・輸送現象が現れる。一方で、超流動・超伝導に現れるワイル粒子は電磁場と直接結合しないと思われていた。しかしながら、我々は、超伝導秩序変数の実空間テクスチャ構造が創発的な電磁場としてワイル準粒子のカイラリティに直接結合し、カイラル異常に起因した特異な輸送現象が現れることを明らかにした。超流動3He-Aにに自然と現れるスキルミオン的な秩序変数のテクスチャ構造はワイル準粒子にとって創発”torsion”磁場として働き、ワイル準粒子の流れを生み出す。この「torsional カイラル磁気効果」がワイル超流体に一般に現れることを示した。このtorsional カイラル磁気効果により生じるワイル準粒子の流れは、「固有角運動量のパラドックス」という3He-Aに長らく存在する古典的問題と深く関わっていることが本研究により明らかとなった。さらに、ワイル超伝導体において印加磁場の増大とともに熱伝導度が増大するという「負の熱磁気抵抗効果」が現れることを見出した。磁束渦周りの秩序変数のU(1)位相の非自明な捻りはワイル準粒子のカイラリティと結合する創発磁場とみなすことができる。磁束渦に沿った方向に熱流を流すと、渦密度(実磁場)を大きくするとともに熱伝導度が増大する。この熱伝導度の増大は創発磁場によるカイラル異常効果として説明できる。以上の成果により、カイラル異常に起因したワイル超流動・超伝導固有の新奇な量子輸送現象が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超伝導の実空間トポロジカル構造とワイル準粒子が絡まり合ってもたらされる「捻れ場(torsion場)由来のカイラル異常効果」について半古典的運動論を用いた一般論を構築し、ワイル超伝導体の候補物質やワイル超流動体である3He-Aにおいて具体的に議論した。負の熱磁気抵抗効果やtorsion場由来のカイラル磁気効果といったワイル超流体に固有な新奇量子現象を見いだすことができた。これら一連の研究は量子効果を完全に取り込んだBogoliubov-de Gennes方程式に加えて準古典Keldysh輸送方程式に基づいて行った。しかしながら、研究の過程において、従来の準古典理論ではワイル粒子固有の輸送現象は記述できないことがわかった。これはワイル準粒子の持つBerry曲率の効果が準古典近似において無視されているためである。本研究成果により、Berry曲率に起因したワイル特有の運動項は準古典近似の高次項に対応することがわかった。このようなトポロジカルな運動項を正確に取り込んだ「拡張された準古典Keldysh輸送方程式」を導出し、その数値計算手法を確立させた。このように当初の研究計画では予期していなかった新たな知見が多く得られており、概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、トポロジカルな運動項を正確に取り込んだ「拡張された準古典Keldysh輸送方程式」に基づいてワイル超伝導体の熱ホール効果について調べる。負の熱磁気抵抗効果やtorsion場由来のカイラル磁気効果に加えて熱ホール効果はワイル準粒子の持つBerry曲率に起因した特異な輸送現象の一つである。しかしながら、ワイル超伝導体ではクーパー対の角運動量に起因した不純物skew散乱による外因的熱ホール効果も存在する。そのため、内因的な熱ホール効果が定量的にどの程度になるかなど重要な問題が残されている。また、ワイル超伝導体では対応するトポロジカル場の理論が存在しないため、バルク・エッジ対応が存在するかは非自明な問題である。このような基礎的な未解決問題に取り組むためにも、ワイル超伝導体の熱ホール効果におけるエッジ状態の役割について明らかにし、バルクエッジ対応について詳細に議論する。ワイル超伝導体の研究に並行して、トポロジカル超流体の教科書的物質である超流動3He-B相におけるボソン励起とマヨラナ粒子とが絡み合った新奇な輸送現象を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はワイル準粒子に対する半古典理論計算を中心に行ったため、当初の計画に比べて手計算による解析が進んだ。さらに研究計画を効果的に推進していくために学会参加することで情報収集に努めた。そのため当初計画では30年度に計算機を購入する予定であったが、30年度の予算は主に国内出張などの旅費に充てることとして計算機の購入を見送ったため次年度使用額が生じた。31年度はさらに研究計画を効果的に遂行するために国際共同研究の体制を強化し、研究成果を発信するために国際会議などにも参加する。次年度使用額は、このための海外出張旅費を中心として用いる。
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