研究課題
本年度は、AおよびBサイトの元素置換でカイラリティ強度を制御可能な物質群A(BO)Cu4(PO4)4(以下AB系と略す)を対象とした研究を推進した。新物質Pb(TiO)Cu4(PO4)4の合成に成功し、その単結晶がAB = BaTiとSrTiの合成法とは異なる方法で合成可能であることを明らかにした。単結晶X線構造解析の結果、PbTi系は他のAB系物質と同様のカイラル結晶構造を有しており、そのカイラリティ強度はSrTi系のそれに匹敵するほど大きいことが分かった。カイラルドメイン分布に関するこれまでの研究から、カイラリティ強度の大きいSrTi系ではモノドメイン状態を、カイラリティ強度の小さいBaTi系ではマルチドメイン状態を示す傾向が見出されている。そこで、PbTi単結晶中のカイラリティドメイン分布を調べたところ、ほぼ全ての試料がモノドメイン状態を示すことが分かった。このことから、AB系におけるカイラリティ強度とドメイン形成様相の相関が、結晶合成方法によらない普遍的なものであることが分かった。カイラリティ強度の小さいBaTi系において、約700度で2次のカイラル-非カイラル構造相転移が生じることを共同研究により明らかにした。さらに、この相転移の前後で旋光性が消失することを本年度に購入した高温ステージによる偏光顕微鏡観察により確認した。これは旋回相転移と呼ばれる大変珍しい相転移であり、酸化物としては初の例である。これにより、適切な外場によりBaTi系のカイラリティが制御できる可能性が大きく拓けた。BaTi系の電気磁気特性を国内外の研究グループとの共同研究により多角的に調べ、磁気四極子秩序に起因した電気磁気結合の観測、および実験を再現する有効スピンモデルの構築に成功した。これらの成果はそれぞれNat. Commun.誌とPhys. Rev. Lett.誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
カイラル化合物群A(BO)Cu4(PO4)4に属する新物質の単結晶合成に成功するなど、物質探索は順調に進展し、これによりカイラリティ強度とカイラルドメイン形成様相の理解を深めることに成功している。さらに、電気磁気特性の探査の過程において、AB = BaTi系における磁気四極子秩序の形成に起因した電気磁気結合の観測に成功するという、特筆すべき成果を挙げることに成功した。一方で、旋光度といった代表的なカイラリティ由来物性とカイラリティ強度の相関を実験的に調べるには至っていない。以上から、研究は概ね順調に進展していると判断した。
AB = SrTi, PbTi, BaTiの単結晶を用いて、代表的なカイラリティ由来物性である旋光度を、定量的に、温度依存性まで含めて測定し、旋光度とカイラリティ強度との相関を明らかにする。そのために、本年度に購入した偏光顕微鏡用ホットステージを改造し、旋光度の定量的測定が可能なレーザー光学系に組み込む。さらに、本年度にBaTi系において発見した磁気四極子起因の電気磁気結合をSrTi, PbTi系についても明らかにし、これら3つの物質の結果を比較することにより、電気磁気結合とカイラリティ強度の相関を明らかにする。得られた知見を総合して、カイラリティ強度と物性の相関の起源を探る。理論研究家との共同研究も随時行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
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