研究課題/領域番号 |
16K05449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 健太 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (70586817)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カイラリティ / 旋光性 / 電気磁気効果 / 非相反電気磁気光学効果 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続き、AサイトおよびBサイトの元素置換でカイラリティ強度を制御可能な物質群A(BO)Cu4(PO4)4(以下、AB系と略す)を対象とした研究を推進した。得られた成果を以下に記す。
これまでに実施した高温単結晶X線回折から、AB = BaTiの系は、約800度でカイラル-非カイラル構造相転移を生じ、その前後においてカイラリティ強度が2次相転移的な温度依存性を示すことが分かっている。そこで、カイラリティに由来する代表的な現象である旋光度とカイラリティ強度の相関を明らかにするため、AB=BaTiの単結晶を用いて、旋光度の温度依存性を定量的に測定した。その結果、相転移温度近傍においては、旋光度の温度依存性は定量的カイラリティの挙動と良く一致することが明らかとなった。一方で、相転移温度から離れると、両者は定性的に異なる温度依存性を示す。次に、AB = SrTi, PbTiについても同様の測定を行い、BaTiの結果と比較した。その結果、室温においてカイラリティ強度はBaTi < PbTi < SrTiの順に大きくなるのに対して、旋光度はPbTi < BaTi < SrTiの順となっており、両者に正の相関は見られなかった。
BaTi系、SrTi系、PbTi系の電気磁気特性を国内外の研究グループとの共同研究により多角的に調べた。その結果、PbTi系においてフェロイックな四極子型磁気秩序が実現し、これに起因してマクロな電気磁気効果が生じることを発見した。この成果は、Physical Review Bに掲載され、さらに、Editors' Choiceに選出された。この他にもPbTi系においては、多極子成分の変化を伴う磁場誘起強誘電転移や、純粋な磁気四極子型秩序系としては初めての非相反光学効果の観測にも成功した。現在、論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PbTi系におけるフェロイックな四極子型磁気秩序の実現と、これに伴うマクロな電気磁気効果の発見は、当初の研究計画では想定していなかった特筆すべき成果であり、これをきっかけとした研究が大きく進展している。一方で、当初計画であるカイラリティ強度と物性の相関の解明に関しては、現状では、得られた実験結果を十分に説明できるシナリオが構築できていない。以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画であるカイラリティ強度と物性の相関に関しては、現在得られている旋光度とカイラリティ強度の温度依存性の対応関係の議論が困難な状況にある。その理由の一つは、旋光度測定を単一の波長でのみ測定している点が挙げられる。そこで、新たに光学系を構築し、旋光度スペクトルの温度依存性を明らかにする。さらに、円2色性スペクトルの温度依存性の測定も行う。 本研究で見出したフェロイックな四極子型磁気秩序に関しては、これに起因した現象の開拓を、誘電特性・磁気特性・光学特性の観点からさらに推し進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
異動により研究代表者の所属機関が変わったことで、研究遂行に必要な金額に若干の変更が生じたため、次年度使用額が生じた。この次年度使用額は、試料薄片化のための研磨冶具および国際会議への参加旅費として有効に活用する計画である。
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