研究課題/領域番号 |
16K05450
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
本山 岳 島根大学, 総合理工学研究科, 准教授 (20360050)
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研究分担者 |
山口 明 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (10302639)
武藤 哲也 島根大学, 総合理工学研究科, 准教授 (50312244)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 点接合分光測定 / 空間反転対称性の破れ |
研究実績の概要 |
超伝導状態の位相において符号反転が生じるいわゆるノードを持つ超伝導物質において、点接合分光測定で観測されるアンドレーエフ反射を結晶構造に反転対称性を持たない超伝導体において観測することが本研究の目的である。本研究を遂行するために、空間反転対称性が破れた超伝導体でありラインノードを有すると期待されているCePt3Siの純良な単結晶試料の育成を第一の目的、点接合分光測定実験法の実験技術の蓄積を第二の目的、そして、最終的に目的を達成することを目指している。 多結晶試料において試料の純良化には850℃における熱処理が重要である事が判明しているため、850℃以下の低温で液相析出させる新しい単結晶育成に挑戦している。このため現在までにCePt3Siの純良な単結晶育成には成功していない。しかしながら、反転対称の破れた新物質の発見に至っている。構造解析の結果、新しく発見された化合物はCe3TiBi5であり、セリウムサイトで局所的に空間反転対称性が破れていることが判明した。また電気抵抗率、磁化率、比熱測定より、反強磁性転移温度が5K、電子比熱係数が210mJ/(K^2^mol)の重い電子系反強磁性であることも明らかになっている。 点接合分光実験については、我々が開発した圧力下点接合分光測定で測定可能な圧力領域で反強磁性と超伝導の両方を観測できるCeIn3より実験を開始している。反強磁性転移および超伝導転移に伴う点接合スペクトルの変化の観測に成功し、本手法が圧力下において超伝導状態を観測可能である事を示した。しかしながら、スペクトルの変化の大きさが期待されるものより小さく、この原因を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶試料の育成についてはおおむね順調に進展している。 過去の報告によるCePt3Siの単結晶育成方法では、育成温度が高く我々の有する設備では困難である事、試料全体で反転対称の破れた方向が揃っているすなわちドメイン構造のない純良な単結晶構造を得ることは非常に困難であることはあらかじめ判明していた。そのため、低温での結晶育成法の開発、および、新たな反転対称性の破れた物質の探索を行っていた。CePt3Siの純良単結晶の育成は成功に至っていないが、新物質の発見には成功し、試料作成の面ではおおむね順調であると判断している。 点接合分光測定についても、スペクトルの変化が理論から予想される値より小さい問題に直面しているが、当初から予想していた問題ではあり、おおむね順調であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
CePt3Siの純良単結晶育成に関する試みと新物質探索については同様に継続する。CePt3Siの単結晶育成は一度合成したCePt3Siを粉末化しSn、Inなどのフラックスを用いて液相反応によって試みている。現在の所、CePt3Siではない別の化合物が生成されてしまう事が判明している。このことは低温では誘拐しにくいPtがしっかりと融解していることを示しており、成功に至っていないものの、方針として間違っていない。生成された化合物の組成を明らかにし、原料の仕込み量を調整し、単結晶育成に再挑戦していく。新物質探索については、Ce3TiBi5の発見と同様のアイデアを基にした試料育成によって、U-Ti-Bi系においても新物質と期待できる結晶が育成されている。現在、詳細な構造解析を行っている所であり、結晶構造の同定および物性測定を行う。 実験より得られた点接合スペクトルが理論計算の結果と比較し小さい問題を解決するため、重い電子系超伝導化合物であるCeCoIn5の点接合分光測定を行う。CeCoIn5の超伝導ギャップ関数はdx2-y2タイプと明らかにされており、スペクトルの解析に適している。ノードのある[110]方向およびノードのない[100]方向のスペクトルを測定し、進展しているスペクトルの理論計算と比較していく。CePt3Siにおいて量子臨界点より低圧側と高圧側で超伝導転移温度の圧力依存性に違いがあるが、この理由は明らかになっていない。それぞれの相において超伝導ギャップの温度依存性を明らかにすることは多結晶試料でも十分に可能であり、ノードの有無の確認だけであれば、多結晶試料でもアンドレーエフ反射の観測は十分に期待できる。多結晶試料を用いて点接合分光測定を開始し、反強磁性と共存する超伝導相と反強磁性が消失した量子臨界圧力以上の超伝導相の両相において圧力下点接合分光測定を行っていく。
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