研究課題
カイラル超伝導状態では、超伝導電子対が自発磁化を持ち時間反転対称性を破る。そのような電子対を発見することには高い学術的意義がある。本研究では、カイラルd波の超伝導状態を示す典型物質の探索を進めている。平成29年度は、(1) カイラルd波超伝導体の新たな候補物質の探索と、(2) カイラルd波の超伝導状態を実証するためのミュオンスピン回転/緩和実験を行った。(1) カイラルd波超伝導体の新たな候補物質を発見した。超伝導転移温度は1.6 Kである。粉末X線回折、単結晶X線回折、化学組成分析の結果から、その化合物が2種類の元素によって成る秩序化したハニカム構造を持つことを明らかにした。ハニカム構造では、dx2-y2波とdxy波の超伝導状態が混成しカイラルd波の超伝導が発現する、という理論的な予測がある。さらに、その化合物は空間反転対称性を破る結晶構造を持つため、パリティ混成した超伝導を発現する可能性も有している。今後、それらの超伝導状態を実証するための実験を進める予定である。(2) ゼロ磁場中および磁場中のミュオンスピン回転/緩和実験を、J-PARC (東海村)で2回、RIKEN-RAL (英国)で1回行った。4種類の候補物質を用いてミュオンスピン回転/緩和実験を行い、そのうち1種の化合物において、ミュオンスピン緩和率が超伝導転移温度以下で増大する兆候を捉えた。これは、超伝導状態における自発磁化の発生を示唆する結果である。今後、試料依存性を調べ、さらに、新たに発見した超伝導体を含む周辺物質での測定を進め、実験結果を詳細に検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究計画通り、ハニカム構造を持つ超伝導体の探索と発見、試料の評価、ゼロ磁場中および磁場中ミュオンスピン/緩和実験を行うことができた。ほぼ当初の予定通り進んでいるため、そのように判断した。
引き続き、(1) ハニカム構造を持つ超伝導体の探索と試料合成を進め、(2) ミュオンスピン回転/緩和実験を行う。(1) 探索と合成を進めるとともに、新たに発見した超伝導体の物性を調べる。(2) 超伝導状態でミュオンスピン緩和率増大の兆候を示した化合物について、試料依存性を調べる。さらに、新たに発見した超伝導体を含む周辺物質のミュオンスピン回転/緩和実験を行い、それらの結果と合わせて実験結果を詳細に検証する。
(理由)外部の研究機関から旅費の支給を受けたため。(使用計画)試料合成で使用する消耗品と、実験および成果発表のための旅費に充当する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
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