研究課題/領域番号 |
16K05454
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松田 達磨 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30370472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | BiS2系層状化合物 / 超伝導 / 構造相転移 / 超格子反射 / 二次元磁性 / 強相関電子物性 |
研究実績の概要 |
層状超伝導体BiS2系化合物 LnO(1-x)FxBiS2 (Ln: 希土類及びアクチノイド)について、希土類化合物の単結晶育成及びウラン元素による置換系の結晶育成を行い、それらを用いて基礎物性測定及び放射光施設を用いた実験を行った結果、以下のような成果を得た。 (1) LnO(1-x)FxBiS2のLn=La, Ce, Pr, Nd およびEuの高純度単結晶育成を用いて、精密な物性測定を行った結果、低温において希土類イオンを含むLnO層の二次元性に起因すると思われる磁気特性異常を観測した。非フッ素置換系(x=0)におけるCe系の非フェルミ液体的な比熱や帯磁率の上昇は、フッ素置換系においても観測されること、またNd系における強相関電子系の重い電子状態に類似した比熱の振る舞い、さらにはPr系におけるメタ磁性的異常の観測に成功した。これらは、希土類金属間化合物で知られている強相関電子物性とは質の異なる物性異常であり、BiS2系の層状構造によって発現した新しい物性である可能性が高い。 (2)La系について放射光施設を用いた精密な構造解析を実施し、x=0について室温では当初報告されていた正方晶よりも低対称 の結晶構造を持ち、加えて超伝導の発現する x > 0 の領域において、正方晶構造の回復と低温で超格子反射が現れることを発見し、フッ素置換量と温度の精密な相図を作成することに成功した。加えて、加圧下での実験を行い、圧力軸も加えた相図の一部を明らかにした。圧力印加により、約1GPa で単斜晶構造へと構造相転移し、それは常圧かつx=0の構造とも異なる新たな構造である可能性が高いことを見出した。 (3)LnO(1-x)FxBiS2におけるX線吸収実験を行い、希土類元素の価数がフッ素置換量に敏感に依存していることと、それによる電子構造の変化が、超伝導発現に関わる可能性を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画の進捗は、実験に必要な単結晶育成の出来に大きく依存する。一部の組成の化合物については、依然単結晶育成が難しい状況にあるものの、このBiS2系層状化合物の持つ特性の全体像を明らかにする上で必要な結晶の多くを得ることことができており、実験もおおむね順調に遂行できている。初年度の研究において、本研究対象の示す物性に深く関わる構造異常を捉えることに成功したことで、本年度は、それらの観測の精密化や、BiS2系全体に共通する物性異常であるか否かの確認実験に発展させることにも成功している。加えて、磁気的特性という視点でも研究を大きく進展できており、この物質系の研究を超伝導と磁性という2つの面において展開できている。また、国内のみならず、国際的な共同研究にも発展させることができており、対象を幅広い実験手法で研究する段階へと進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
3年計画で実施を予定していた研究内容に対し、2年間で実施した実験及び得られた成果としてはほぼ予定通りに進んでいる。3年目はこれら2年目までに得られた成果をまとめることに加え、当初計画にある高圧合成方によるBiS2系の新規相の開発を進める。常圧下での新規相の探索は国際的にも進められているものの、超伝導物質探索としては成果が得られていないという背景もあり、高圧合成技術による探索により新しい研究対象の発見をめざす。 共同研究としては、X線吸収実験や光電子分光実験、加圧実験等について引き続き推進する。加えて、本BiS2系において充分な実験がなされていない核磁気共鳴実験等をすすめ、超伝導発現や構造不安定性について微視的な知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画において、初年度に必要と考え予算を計上していた50万弱の電気炉購入に対して、研究が順調に進んだことでその電気炉購入の必要性が低下した。その予算を2年目に繰り越し、他の実験用物品や寒剤、特に低温X線回折実験や輸送特性実験用の液体ヘリウム代として使用する予定であったが、学外の共同利用施設等の利用申請が受理されてことで、予定していた支出が抑えられた。当初計画の2年目の予算としてはほぼ予定していた金額を使用したが、初年度からの繰り越し分がほぼそのまま次年度に繰り越すこととなった。本研究では、成果とともに共同研究が拡大しており、実験用試料の提供を求められていることから、それらの作成に必要な薬品や原料購と、3年目に計画している高圧合成実験の消耗品購入のために予算を使用する予定である。
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