研究課題/領域番号 |
16K05456
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
宍戸 寛明 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80549585)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 薄膜製膜 / 近藤絶縁体 / 近藤トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
基板としてSi(001)を用いることにより分子線エピタキシー法によりCeB6,SmB6およびSrB6のエピタキシャル薄膜を得た.原料となる希土類とBはそれぞれ独立にクヌードセンセル(Kセル)による加熱蒸着源から供給し,原子の供給速度をKセルの温度コントロールにより精密に制御した.基板温度は1000℃で蒸着を行った.このような高い基板温度下では一般に蒸気圧の高いSmやSrの基板上での再蒸発による欠損が危惧されるが,CeB6のみならずSmB6,SrB6共に科学量論比通りの希土類:B=1:6の蒸着速度でエピタキシャル膜を得た.蒸着は10^-7 Pa程度の超高真空化で行った.Bは蒸気圧が低く,高温Kセルで到達可能な温度では昇華による極めて遅い蒸着速度しか得られない.しかしながら,超高真空下でKセルによる加熱蒸着により長時間の安定したフラックスを得ることにより,安定した膜成長を実現した.得られた膜の構造はX線回折によりその構造を評価した.X線回折の結果から基板の面直方向(Si[001])に対してはRB6[001]が配向したドメインと[-110]が配向したドメインの混交がいずれの希土類硼化物でも観測された.面内においてはSi基板[110]に対してRB6(R:希土類)薄膜[100]が配向する傾向が強い.これはどのドメインでも同様である.そのためRB6[001]//Si[001]のドメインでは面内配向性はRB6[100]/Si[110]でエピタキシャル成長した.これに対してRB6[-110]//Si[001]のドメインでは(-110)面は2回対称であるため,面内でRB6[100]//Si[110]のドメインとRB6[110]//Si[110](RB6[100]//Si[-110])の2つのドメインが生じる.そのため合計3つのドメインが混交してエピタキシャル成長することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
希土類六硼化物薄膜についてエピタキシャル製膜技術の開発に成功した.これは多極子秩序を示すCeB6のみならず近藤絶縁体SmB6, 通常のバンド絶縁体SrB6も含まれる.更にこれらの希土類六硼化物薄膜の育成条件はほぼ同様であり,同じ基板温度で育成可能であることも明らかになった.これにより本研究で目指す多極子秩序を示す希土類六硼化物の人工超格子の製膜に発展させる準備が整ったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
28年度で確立された希土類六硼化物薄膜の成膜技術により多極子を示す重い電子系希土類六硼化物と通常のバンド絶縁体となる希土類六硼化物が交互に積層した人工超格子を作製する.人口超格子の重い電子系層の厚みを徐々に薄くすることにより次元性を3次元から2次元へと連続的に変化させ,多極子秩序の抑制とそれに伴う電子状態の変化について電気抵抗率測定から明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の遂行のためにはBを蒸着するための高温Kセルが必須である.この高温Kセルを安定的に使用するためには定期的なメンテナンスと消耗部品の交換が欠かせない.またB用のるつぼについてもBの熱膨張と高温での消耗により定期的な交換が欠かせない.これらの費用を見込んでいたが本年度中の実際の消耗は見込みを下回ったため次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
前述の通り本年度で見込んでいた消耗が実際には見込みを下回った.しかしながら確実にB用のるつぼやヒータなどの消耗は進んでおり,次年度中での交換が必要と考えられる.繰り越し分を用いてこれらの消耗品の購入を行う予定である.
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