研究課題/領域番号 |
16K05457
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
水戸 毅 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (70335420)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ランタノイド化合物 / NMR / 価数 / 高圧 |
研究実績の概要 |
初年度は、4f電子数によって特性が劇的に変化し、かつこれまで集中的な研究がなされていないサマリウム(Sm)・ユーロピウム(Eu)・イッテルビウム(Yb)系のランタノイド化合物について、それらの電子状態に関する新しいデータを集めることに主眼を置いた。 SmB6は、圧力と温度によってSmイオン価数が変化し、同時に「半導体-金属」と「非磁性-磁性」の転移が現れる物質である。この物質において行ったX線吸収分光(XAS)の結果を解析し論文報告としてまとめるた(現在、Phys. Rev. Lett. 誌に投稿中)。この成果は、SmB6のSm価数が示す温度-圧力依存性の全容を初めて明らかにしたものであり、相転移の機構を明らかにする上で重要な情報を与える。また、11B核の核磁気共鳴(NMR)測定を、相転移が生じる臨界圧力直下の7GPaまで行うことができた。測定は、多結晶試料に比べて精度が高く情報量が多い単結晶試料を用いており、電気的特性を検出するXAS測定に対して、磁気的な観点から磁性と半導体ギャップの圧力依存性について情報を得た。 Eu系化合物研究では、温度変化によってEu価数が大きく変化するEuPd2Si2について進展があった。105Pd核の核四重極共鳴(NQR)のスペクトルを220Kの高温まで測定することに成功し、核四重極共鳴周波数がEu価数変化とほぼ線形の変化を示すことが明らかになった。この共鳴周波数は局所的な電荷分布を反映する量であり、本研究では今後も系統的な測定を続け、電子状態に関する新たな情報抽出を目指す。 Yb系では、温度変化によって逐次転移を示すYbPdについて進展があった。105Pd核のNMR測定で、初めて低温から200Kまでの領域で信号観測に成功し、125Kと105Kの相転移温度以下で核四重極相互作用が現れ、結晶対称性が立方晶系よりも低下していることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、SmB6について臨界圧力領域以上での高圧下NMR測定に昨年度中に着手している予定であったが、計画通りには進んでいない。これは、一度は目標値を超える10GPaの圧力発生に成功したものの、時間の経過とともに高圧セットアップに不具合が生じてしまったためである。しかし、NMR測定でこれほど高い圧力発生は世界最先端の技術をもってしても容易なものではないことは理解しているので、今回の足踏みは想定の範囲内である。平成29年度の前半に圧力印加に成功したいと考える。SmB6については、Smを非磁性La元素で置換する効果について、成果が順調に得られている。測定の困難さが予想されたEuPd2Si2については、昨年度中に核四重極共鳴周波数の温度変化が得られたことが想定を超える進展であった。今後は、ランタノイドサイトをLa,Ce,Ybに代えた物質との比較を105Pd-NMR/NQR測定によって行うことによって、局所電荷分布に関する情報をもたらす新たな研究手法として発展する可能性がある。加えて、YbPdについては、逐次転移以下の105Pd-NMR信号を初めて検出する等、研究は順調である。 兵庫県立大学に設置されていてこれまで殆ど使用されていなかった化学用の超伝導磁石を本研究用に改造し、有効利用する計画がほぼ完了した。この計画のために、液体ヘリウム温度の低温までの温度可変が可能になるように、ガラスデュワーを購入した。さらに、NMR用高周波回路のチューニングをよりスムーズに行えるようにするために、新たにインピーダンスアナライザーを購入した。本機は、将来的な自動チューニングシステムの導入にも対応しており、今後の技術改良の実現性が高まった。
|
今後の研究の推進方策 |
SmB6の臨界圧力以上での11B-NMR測定を実現させ、低圧領域での非磁性から高圧領域での磁性出現の証拠をつかむと同時に、磁気秩序を示すNMRスペクトルの観測を目指す。SmB6のSm-La希釈効果については、La濃度25~100%試料について行った実験結果から半導体ギャップの変化に関する情報を得るための解析を進める。この工程については、物性理論の理論家との密な議論を要するため、島根大学の理論グループとの共同を行う。こうして得られた成果を、上記のXAS測定に関する投稿中論文と合わせて、平成29年度中に論文報告出版することを目指す。La希釈効果については、同じ結晶構造を有する重い電子系化合物CeB6についても同様のLa希釈効果を調べ、半導体(SmB6)と金属(CeB6)との相違について両者の比較を行う。YbPdについては、低温相における105Pd-NMRスペクトル構造を測定精度を高めることによって明らかにし、系の対称性変化について議論を行う。また、現在この物質における測定で見つかっている高温から逐次転移に向かってNMR信号強度が減少する現象について、その機構を明らかにする。この現象は、価数揺らぎの存在に関係していると考えられる。Yb系化合物については、Yb-4f電子と伝導電子との混成による電荷の移動について微視的に明らかにするために、YbInCu4とYbCu5に加えてYbAgCu4のそれぞれ115In-,63Cu-,107Ag-NMR測定を行う。 実験技術の改良については、昨年度購入したインピーダンスアナライザーを用いたNMR自動チューニング技術の開発を行う。必要に応じて、他研究機関との共同を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
NMR測定用プローブに使用する可変コンデンサーを購入する予定であったが、納期に3カ月ほどかかることが分かり、年度内の納品に間に合わなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は当初の予定通り、NMR測定用可変コンデンサーの購入に充てる。
|