研究課題
本研究の目的は、T'構造を有する電子ドープ型銅酸化物超伝導体における母物質での新しい超伝導の発現メカニズムを解明することである。この目的のために、今年度は、還元処理の効果を詳しく調べるとともに、これまでになく低いCe濃度組成のバルク単結晶で超伝導を発現させることを目指した。フローティングゾーン法によって作製した電子ドープ型銅酸化物T'-Pr1.3-xLa0.7CexCuO4+δ(x=0.10)の単結晶に対して、これまで行ってきたプロテクトアニール法に、低温アニール法とダイナミックアニール法を組み合わせて還元処理を行った。その結果、これまで以上に超伝導転移温度Tcが高い最適還元に近い試料と、Tcがやや低下した過剰還元領域の試料の作製に成功した。これらを用いてミュオンスピン緩和測定を行った結果、どちらも磁気秩序が消失し、低温でCuスピン相関が発達していることが明らかになった。これらのことから、超伝導とCuスピン相関に密接な関わりがある可能性が高いと結論した。フローティングゾーン法によって電子ドープ型銅酸化物T'-Nd2-xCexCuO4+δ(x=0.10)の単結晶を作製した。この単結晶にプロテクトアニール法による還元処理を行ったところ、マイスナー反磁性を観測することに成功した。x=0.10はこれまで絶縁体と思われていた組成であることから、プロテクトアニールが効果的に働いて、これまで以上に過剰酸素が抜けたために超伝導が発現したと考えられる。しかし、反磁性はそれほど大きくないため、超伝導の体積分率が小さいと思われる。今後は、アニール条件を変えて詳しく調べる必要がある。
2: おおむね順調に進展している
これまでの還元処理の方法であるプロテクトアニール法に、低温アニール法とダイナミックアニール法を加えることで過剰還元試料の作製に成功した点で大きな進歩があった。また、これらの試料を用いてミュオンスピン緩和測定を行うなど、超伝導とCuスピン相関の関連を明らかにするための研究が順調に進んでいる。薄膜試料で新しい超伝導が発現するT'-Nd2-xCexCuO4+δにおいて、バルク単結晶で超伝導を発現させて詳しく調べるための研究が概ね順調に進んでいる。今年度は今までになく低いCe濃度をもつ単結晶で超伝導を発現させることに成功した。しかし、超伝導の体積分率が小さいことから、還元条件などを改善する必要がある。
・過剰還元をさらに進めて、Tcが大きく低下したT'-Pr1.3-xLa0.7CexCuO4+δ(x=0.10)の単結晶を作製し、ミュオンスピン緩和測定からCuスピン相関について調べるとともに、ホール抵抗率測定から電子状態を明らかにする予定である。・超伝導の発現に成功したT'-Nd2-xCexCuO4+δ(x=0.10)の単結晶に対して、還元条件を最適化することでバルク超伝導を発現させることを目指す。同時に、輸送特性やミュオンスピン緩和測定から電子状態を詳しく調べる。また、さらにCe濃度が低い組成の単結晶を育成し、還元処理によって超伝導を発現させることも目指す。・電子ドープ型銅酸化物の母物質の単結晶を作製し、適切な還元処理によって超伝導を発現させ、電子状態を詳しく調べる。
調査研究、成果発表、ミュオンスピン緩和実験、ホール抵抗率実験などのための旅費の支出が予定以上に大きかった一方で、消耗品等の支出を他の研究予算で賄えたため、次年度への繰越金が生じた。
次年度は、消耗品等の支出が必要になり、また、実験と成果発表のための旅費が必要になるため、当初予算よりも支出が大きくなると予想される。したがって、繰越金を含めて有効に支出して行く予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
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