研究課題
本研究の目的は、T'構造を有する電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体において、母物質での新しい超伝導の発現メカニズムを解明することである。この目的のために、電子状態に対する還元処理の効果を詳しく調べるとともに、これまでになく低いCe濃度の単結晶で超伝導を発現させることを目指した。電子ドープ型銅酸化物の母物質であるPr2CuO4の単結晶を用いてX線吸収分光の測定を行った。その結果、還元とともに電子とホールがドープされることを突き止めた。このことから、電子ドープ型における超伝導はホールキャリアが重要な役割を担っている可能性が高いと言える。電子ドープ型銅酸化物Nd2-xCexCuO4のアンダードープ領域であるx=0.05と0.10の単結晶に対して、プロテクトアニール、低温アニール、ダイナミックアニールを行った結果、どちらの試料でもバルク超伝導を発現させることに成功した。また、x=0.10の単結晶を用いてミュオンスピン緩和の測定を行った結果、バルクの超伝導が発現する試料において、低温で反強磁性長距離が形成されることを見出した。このことから、超伝導と磁気秩序が共存すると結論した。電子ドープ型銅酸化物Pr1.3-xLa0.7CexCuO4のx=0.05を用いてミュオンスピン緩和測定を行った結果、還元してバルク超伝導が発現するとともに、磁気転移温度と磁気秩序領域の体積分率がともに減少することがわかった。これらのことから、試料中で超伝導領域と磁気秩序領域が棲み分けた描像が正しいと思われる。昨年度までに得られた結果とともにまとめると、電子ドープ型銅酸化物では、Cuスピン相関の発達が超伝導の発現に密接に関わっていること、電子とホールのマルチキャリアが存在することが明らかになった。これらの結果は強い電子相関に基づく電子構造モデルで理解できると結論した。
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