研究課題/領域番号 |
16K05459
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光誘起電子運動凍結 / 光誘起電荷秩序 / 動的局在 / 有機導体 / クーロン相互作用 / 三量体構造 / 空間反転対称性 / 鏡映対称性 |
研究実績の概要 |
速く振動する光電場を連続的に照射すると、ある条件の下で電子の遍歴性が抑制され、動的局在が起きることが知られている。これに似た光誘起電子運動凍結が、擬2次元有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の高温金属相でパルス電場照射後に起き、その動的局在との関連性が指摘されていた。しかし、どの物質でも起きることでなく、当該物質のトランスファー積分ネットワークや電子間相互作用の異方性がどう関与するか、謎だった。さらに当該物質の低温電荷秩序相では電子型強誘電性が発現し、それとの関係も示唆されていた。 そこで、当該物質の金属相が有する空間反転対称な結晶構造と、これとは別に鏡映対称性をもつ仮想的な結晶構造に対し、光誘起多電子ダイナミクスを厳密対角化に基づき計算した。電荷秩序に伴う長距離秩序は有限系で計算できないため、二重占有率や隣接サイト間密度相関を求め、その時間平均を有効相互作用と有効バンド幅の比として整理した。これらの結晶構造には、最大のトランスファー積分で繋がった三量体が配置されている。空間反転対称性をもつ構造は線形の三量体を、鏡映対称性をもつ構造は曲がった三量体を有する。前者が上記の有機導体に対応し、どちらも三量体の端点が結晶学的に等価である。 数値計算から分かったのは、結晶学的な等価なサイトの間のクーロン反発の重要性である。この等価性が金属相を保持しており、わずかな外場により対称性が破れると、隣接サイト間相互作用の異方性が有効的に増大し、電荷秩序を発現しやすくなる。金属相における当該現象では光電場が、絶縁相における電子型強誘電性には格子歪みが、対称性を破る外場として働く。さらに、当該現象は隣接サイト間相互作用が競合するときにのみ発現し、三量体を形成するトランスファー積分も含めた三つ巴の競合が必要であること、それは鏡映対称性をもつ結晶構造でも起きることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験で観測されたα-(BEDT-TTF)2I3の金属相の構造に限らず、結晶学的対称性に基づくゆるやかな条件で、光誘起電子運動凍結が起きることを理論的に示すことができた。密度相関を直接的に実験で観測することはできないが、その励起光偏光依存性を、反射率変化における励起光偏光依存性と比較することができる。実験で観測された偏光依存性は、理論による予測と整合しており、機構解明に向けて大きく前進した。
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今後の研究の推進方策 |
光誘起電子運動凍結に伴って現れる、隣接サイト間相互作用の異方性が光電場印加後に有効的に増強する現象は、動的局在だけでは説明できない。これはフロケ理論の高周波数展開の最低次では得られないことを意味するため、展開の高次を求めて数値計算と比較する。それにより、本来は連続波照射中の時間発展を記述するフロケ理論の有効ハミルトニアンが、パルス電場照射後に現れる過渡現象をどの程度説明できるかを、整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
連携研究者や大学院生が旅費として使う予定だったものについて、研究の途中結果を吟味し、発表は時期尚早と判断して、次年度にまわした。
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次年度使用額の使用計画 |
連携研究者や大学院生との研究は着実に進んでおり、機会をみて研究成果を発表する。
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