研究課題
擬2次元電子系としての有機導体のうち二量化構造をもつκ-(BEDT-TTF)2Xにおいて、強い光電場を印加した後に観測される誘導放出の起源をこれまで調べてきた。この知見を基に、強い光電場の印加中に観測された第二高調波発生について、理論的に調べた。この物質は空間反転対称性をもち、通常なら第二高調波発生は起きないはずである。したがって、これは強い光電場の印加によって電子状態の空間反転対称性が破れたことを意味する。通常の時間スケールでは散逸が効いて、電場と電流は比例関係にある。しかし、電子の散乱時間よりも短い時間スケールでは、電場は電子の加速度に比例し、それらを時間積分したベクトルポテンシャルと電流が比例関係にある。そのような極限状況下では、電流の時間プロファイルが光電場の立ち上がりの波形(キャリアエンベロープ位相)に敏感に依存すると期待された。これらの状況が理論計算で再現され、実験と矛盾しない結果が得られた。当該物質の結晶構造と分子軌道の重なりを反映した遍歴電子模型を用いて、厳密対角化により電子相関をとりいれた計算により、当該物質が強い光電場の印加中に第二高調波発生を起こすことを確認した。系統的な計算を可能にするために、今後は平均場近似を用いることにして、この近似でも第二高調波発生を再現することを確認した。散逸がないと、強い光電場の印加中は一般に第二高調波発生が起きるが、相互作用のない1次元電子系ではキャリアエンベロープ位相によって第二高調波発生が起きない条件が知られていた。相互作用がある2次元電子系でもこれが成り立つことを数値的に確認した。電流の時間微分の第二高調波に対応する成分は、光電場の三乗に比例し、これまでの理論と矛盾しない。しかし実験ではこれが光電場の二乗に比例する。この模型に入っていない分子内遷移が効いていて、それに敏感な物理量が光電場の二乗に比例することを示した。
2: おおむね順調に進展している
強い光電場が起こす現象として、二量化構造をもつ電子系の場合は、第二高調波発生と誘導放出がそれぞれ光照射中と光照射後に起きることがわかった。これらはどちらも電子ブリージングによる電荷振動が関わっており、第二高調波発生と誘導放出が密接に関連することを示唆する結果を得た。これらの現象には電荷振動の同期が必要であると期待され、その知見も得つつある。
これまでみてきたのは光電場で電子状態の空間反転対称性を破ることである。ほかには円偏光パルス照射で時間反転対称性を破ることが期待される。それにはスピンの量子揺らぎが大きい電子系が理想的なので、量子スピン液体状態を示す物質に注目する。特に、スピン軌道相互作用が強いと電子の軌道ダイナミクスをスピンダイナミクスに直接変換できる。これらの性質をもつ電子系に対し、電子状態の対称性と光誘起超高速現象の関連を追及する。
次年度に在外研究をする上で本研究と統合的な研究を進める準備をしたこと、新型コロナウィルス感染症の世界的流行により出張をキャンセルしたこと、などにより支出がかなり減った。また、量子スピン液体状態を示すスピン軌道相互作用の強い電子系に対象を広げたことで、論文を出版するには至っていない。しかし、研究自体は進んでおり、次年度は研究成果の発表のための国内外の出張と論文出版に、より多くを支出することを計画している。
すべて 2020 2019 その他
すべて 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
http://www.phys.chuo-u.ac.jp/labs/yonemitsu/
https://researchers.chuo-u.ac.jp/Profiles/3/0000277/profile.html