研究課題/領域番号 |
16K05464
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
倉本 義夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別教授 (70111250)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電荷近藤効果 / QCD近藤効果 / 励起子効果 / 量子相転移 / 軌道近藤効果 / 遍歴多極子 / 複合体秩序 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,擬近藤効果に関する研究の現状分析を行い,またクォーク・グルオンプラズマ系で新しいタイプの擬近藤効果の提案を行った。具体的な実績は,英文レビューと原著論文の出版,夏の学校での特別講義,国際ワークショップでの講演などである。レビュー論文では,非クラマース系の秩序に焦点を当てて,理論的な意義と実験的研究の現状を議論した。特に局在・遍歴複合体秩序に関して,さまざま観点からの検討を行った。 本年度の一番の成果として,近藤効果に関連する物理が物性に限らず,素粒子・原子核物理の領域でも重要であることを示したことを挙げる。多クォーク系においては,内部自由度としてスピンの他に色の自由度がある。これは,グルオンを交換して強い力を実現する立役者である。クォークにはフレーバーの自由度もあるが,後者にはスピンや色のような縮退はない。すなわちアップやダウンなどのように軽いものと,チャーム,ボトム,トップなどのように重いものがある。ほぼ光速に近いほどに加速した重イオン同士が衝突する際には,一時的に超強磁場中のクォーク多体系が実現する。また,マグネターと呼ばれる天体系などでは,準定常的に類似の状態が実現している可能性が強い。プラズマ状態では,クォークの持つ色の自由度は擬スピンとしてふるまうが,超強磁場でもその縮退は保たれている。したがって,近藤効果に類似した現象が期待できる。その際,軽いクォークが電子,重いクォークは空間に固定された不純物として扱うことができる。このような系の特性エネルギーは近藤温度に対応する。我々は,繰り込みの過程に強磁場効果と相対論効果が効くことにより,近藤温度は物性系とはかなり異なるパラメータの組み合わせになること,また軽いクォークの質量形成過程に近藤効果が介入する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連研究の現状を概観した英文レビューを発表し,強磁場中クォーク・グルオンプラズマでの色自由度による近藤効果を提案した論文を出版した。これは,当初の研究計画にはなかったことであるが,近藤効果の物理が持つ幅広い適用可能性と深みを示すことで大きな意義があると考えられる。また国際ワークショップでの擬近藤効果に関する招待講演や,夏の学校で関連するトピックの講義を行った。
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今後の研究の推進方策 |
擬近藤効果の舞台を当初の計画より広げる。特に素粒子・原子核物理学の分野との交流を通じて,クォーク多体系の近藤効果について研究を進展させる。特に物性系との共通点と相違点に注意して研究を進める。 一方,物性系では軌道近藤効果が出現する微視的条件を明らかにする。これはPrを含む多くの系で活発な実験的研究が行われていることが背景にある。非クラマース二重項が結晶場基底状態であっても,軌道交換相互作用の符号によっては近藤効果は発現しない。我々はPrMg3などの単純な構造を持つ系の電子構造に基づいて,軌道交換相互作用を導出する研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
パソコン関連のハードウェアとして,現有の備品がもう少し使えると判断し,購入を延期した。また,外国出張については,延長した別の科研費から支払いを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に,最新のパソコン関係のハードウェアを更新する予定である。また,本年度の外国出張に当科研費から旅費を充当する。
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