研究課題/領域番号 |
16K05464
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
倉本 義夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (70111250)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軌道近藤効果 / 軌道縮退 / 鉄系超伝導体 / エレクトライド / 中性子散乱 / 上部臨界磁場 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究では,軌道近藤効果をより広い文脈で捉え,軌道自由度が重要な役割を演じている可能性が高い物質に目を向けた研究を行った. (1)層状窒化物Y2Cはエレクトライドと呼ばれる一連の物質群の中にあり,電子アニオン由来の興味深い物性が報告されている.本研究では中性子散乱の解析により、Y2Cでは弱い強磁性ゆらぎが重要なことを見出した.すなわち、波数0付近で弱いながらも明確なローレンツ型形状を示す磁気散乱が観測され,測定された最低温度(7K)までは磁気秩序がない.波数の増加に伴い、磁気形状因子は孤立Y原子の4d電子に期待されるよりも速く減衰する.この結果は,Y2Cの遍歴的な磁性が層間に存在するアニオン性電子に由来することを示している.Y2Cの帯磁率が一見キュリーワイス的な振る舞いをすることは、局在モーメントによるものではなく,遍歴スピン揺らぎのモード結合効果によるものと結論される. (2)鉄系高温超伝導体として種々の化合物が報告されているが,一般に軌道縮退がクーパー対形成に不可欠と目されている.鉄オキシニクタイドLaFeAsO_1-xH_xは水素ドーピング量xに依存して,2つの超伝導相(SC1およびSC2)と2つの高温相を持つ特徴的な物性を示す.本研究では,105Tまでの強磁場下での上部臨界磁場の温度依存性を2バンドモデルに基づいて解析した.SC1およびSC2で明確に異なる挙動から、SC1ではバンド間結合が超伝導に重要であるのに対し、SC2ではバンド内結合が重要であることがわかった.SC2で多軌道効果が重要でないとすると,ペアの対称性はd波の可能性が強くなり,今までの通説とは異なる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KEKを中心とする実験グループと協力して,今まで扱ってきた物質群とは異なる方向に研究を展開した.コロナ禍のために出張して議論をすることのバリアが高くなり,ZOOMによる議論を活用することにより研究協力を補った.その際に,近藤効果を中心とする電子相関についての長年の経験が新しい物理的解釈を行なうための有力な助けになっている.例えば,Y2Cの磁性については,局在モーメントを前提とする議論が多く行われてきたが,全体の理解をするためには,遍歴電子の弱い強磁性ゆらぎの描像のほうが自然である.また,鉄系超伝導体の上部臨界磁場がドーピング量によって非常に異なる挙動を示すことから,クーパー対の対称性が異なる可能性を示唆したことは,この物質群の全体的理解に資するものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
鉄系超伝導体については,実験家との共同研究で扱っている結果,およびすでに出版されている結果を批判的に分析し,軌道自由度の重要性についての理解をまとめたい.今の所,コロナ禍で出張しにくい状況が続いているが,オンラインの議論もできるだけ活用して,研究全般の仕上げを行うように努力する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ禍で出張が制約されたことが主な原因となり,研究仕上げを次年度に延ばす必要があった.2021年度は国内出張費用と消耗品購入に科研費を充てる計画である.
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