研究課題/領域番号 |
16K05466
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢久保 考介 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40200480)
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研究分担者 |
小布施 秀明 北海道大学, 工学研究院, 助教 (50415121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フラクタル / 臨界現象 / 複雑ネットワーク / スモールワールド / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、過負荷故障カスケード過程に基づくダイナミクスによりスケールフリー・ネットワークが自己組織化されるモデルの構築を行った。我々は以前に、成長と過負荷故障カスケードによる崩壊を組み合わることで、自己組織化臨界性(SOC)を示すようなネットワーク構築の時間発展モデルを提唱したが、このモデルによって形成されるネットワークは、現実の複雑ネットワークと比較して狭い次数分布関数しか持ち得なかった。初年度の研究において我々は、ベキ的な次数分布関数を有するスケールフリー・ネットワークが発現するような新たなモデルを構築した。具体的には、まず数ノードから成る小さなネットワークを用意し、各時刻にベキ的な分布に従う耐性パラメータmを持つ新規ノードを参入させて、これを優先選択的に既存ノードと結合させる(成長)。このネットワークの過負荷故障確率を計算し、その確率に従ってノードを除去する(過負荷故障)。このネットワークに対して再計算された過負荷故障確率で更なるノード削除を行うことを繰り返す(カスケード)。削除されるノードが無くなった時点で新たなノードを参入させるという操作を、定常に達するまで繰り返す。ネットワークが大きく成長し過負荷故障パーコレーションの意味で超臨界状態になると系は不安定化し、亜臨界状態へと崩壊する。そのため、系は自発的にパーコレーション転移点上の臨界状態へと接近するようなSOCを示すことになる。本研究では、このことを数値シミュレーションにより明らかにした。また、耐性パラメータがベキ分布するためノードの寿命分布も長いテールを持つようになり、その結果、定常状態における次数分布がベキ型の関数を持つことを明らかにした。さらに、次数分布関数のベキ指数は耐性パラメータ分布の指数μに依存するが、SOCの普遍クラスとは無関係であることをマスター方程式を解析することによって示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の大きな目標は、ベキ的な次数分布関数を有するスケールフリー・ネットワークが自己組織的に発現するようなSOCモデルを構築することであったが、これに関しては当初の目標を十分達成することができたと考えている。このモデルを構築するため、まず耐性パラメータmを指数μでベキ分布させたネットワークに対し、負荷の時間的な変動を考慮した過負荷故障カスケードによるパーコレーション転移点を母関数法を用いて計算した。次に、耐性パラメータ分布の指数μの値を変えた際にクラスター・サイズ分布のベキ指数τがどのように変化するかを明らかにすることで、転移の普遍クラスと耐性パラメータ分布の関係を評価した。この結果を踏まえ、上述の過負荷故障カスケードと成長過程によるSOCモデルを構築した。実際、このモデルがSOCを示すことを確認するため、カスケードのサイズ分布、カスケードの時間間隔分布、カスケード後の連結成分のサイズ分布等を調べた。その結果、これら全ての分布関数がベキ関数によって表されることから、本モデルのダイナミクスがSOCを示すことが明らかとなった。しかしながら、パラメータの組み合わせによってはSOCを示さない場合もあったため、SOCが発現するためのモデル・パラメータの条件についても考察した。特に、臨界カスケード直前のネットワークの次数分布が、ベキ関数によって与えられることを数値計算により確認した。その際の指数γの値と指数μの関係を明らかにするため、本モデルのダイナミクスを記述するマスター方程式を建てた。この方程式の数値解とシミュレーション結果とはよく一致しているため、このマスター方程式による解析方法が有効であることが判明した。申請時には、マスター方程式による解析を予定していなかったため、平成28年度の研究は当初の予定以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、平成28年度に構築したモデルにおいて発現するSOCの普遍クラスについて、マスター方程式に基づく解析を行うことにより、その詳細を解明する。SOCダイナミクスにおける臨界点直上でのネットワークはフラクタル性を有することが期待できるが、本モデルの臨界カスケード直後のネットワークにもフラクタル性が見られるか否かをCompact-Box-Burning法によるフラクタル解析で明らかにする。フラクタル性を有するネットワークが、負の隣接次数相関を示すことは良く知られている。しかし、複雑ネットワークの大域的な構造特性をより深く理解するためには、ネットワーク距離の意味で長距離に渡る次数相関を定量化する必要があると言われているが、これまでのところ長距離次数相関の定式化に成功した研究例は無い。平成29年度以降の研究においては、長距離次数相関を特徴付ける様々な確率変数を導入し、それらの間に成立する一般的な関係を導出する。また、これらの確率関数を用いて高次数ノード間の"斥力"を表す新たな量を導入し、長距離次数相関を定量化する方法を提案する。これを用いることでフラクタル性と長距離次数相関との一般的関係を明らかにするとともに、本SOCモデルのダイナミクスの過程において形成されるフラクタル・ネットワークの長距離次数相関を評価する。さらに、本SOCモデルにおいて、ネットワーク全域に渡るような巨大崩壊(ドラゴンキング)が起こり得ることを大規模数値計算により明らかにし、時間発展におけるネットワークの各種統計量をモニターすることにより、ドラゴンキング現象の予兆を見つけ、これを未然に防ぐ手段を探索する。また、自己組織化されたネットワークの機能を最大限に引き出すため、フラクタル・スケールフリー・ネットワーク上の量子ウォークの挙動とフラクタル次元やスケールフリー指数との関係を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初は、課題研究における数値計算を遂行するため、現有のコンピュータに加え、Unixワークステーションを1台購入する予定であった。しかしながら、購入予定のワークステーションが、その仕様と価格において近々刷新されるとの情報を得たため、機種が新しくなってから購入した方がより有効に研究費を使うことができると判断し、平成28年度での購入を控え、翌平成29年度に購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上で述べたように、仕様と価格が更新された新しい機種のUnixワークステーションを平成29年度に購入し、これと現有の計算機を併用することにより、計画された課題研究の数値計算を行う予定である。
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