研究課題/領域番号 |
16K05469
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物性基礎論 / 量子多体系 / 場の理論 / 統計力学 / 量子異常 / 反強磁性体 |
研究実績の概要 |
本研究計画の基礎の一つである論文"Symmetry Protection of Critical Phases and a Global Anomaly in 1+1 Dimensions"について、レフェリーコメントに対応して実験への帰結に関する考察を含め研究を発展させ、Phys. Rev. Lett.誌に出版した。 また、強相関量子多体系の相の分類についての新たなアプローチとして、正方格子・立方格子上のS=1/2ハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態のShannon-Renyiエントロピーのスケーリングを研究した。数値的な研究によって、非普遍的な「体積則」項に加え、系のサイズに対数的に依存する普遍的な項の存在が示唆されていたが、境界を持つ場の理論によってこの対数項の存在を導き、普遍的な係数の厳密な値を求めた。この解析的な結果は、数値計算と概ねよい一致を示している。 さらに、長年の間論争が続いているカゴメ格子上のS=1/2ハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態について、密度行列繰り込み群(DMRG)による計算を再検討することで、ディラックスピン液体の強い証拠を得た。これまで、DMRGからは、このモデルの基底状態は励起ギャップを持つZ2スピン液体であることが示唆されていたが、DMRGは有限周長を持つ円筒について行われることに注意する必要がある。実際、我々は境界条件の変化によりギャップが大きく変化しある点で消失する傾向にあることを見出した。これは熱力学的極限では系はギャップレスであることを示唆する。さらに、転送行列のスペクトルに特徴的なディラック・コーンが現れ、ディラックスピン液体であることの強い証拠となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カゴメ格子上のハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態は、物性物理学における最重要問題の一つであり、これに対して予期せぬ大きな進展を得た。場の理論に基づく研究にも、今後大きな影響を与えるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたカゴメ格子上のハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態に関する結果を踏まえ、場の理論の観点からのこのモデルの基底状態および低エネルギー励起状態の解明をはかる。 また、当初の計画に沿って、離散的な対称性に関するオービフォールドの持つ量子異常と、量子臨界相の分類の関係を系統的に調べる。 さらに、電気分極とゲージ不変性の関係を明らかにし、これと量子異常を結びつけることで、量子多体系に対する新たな一般的な制約を導く。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際共同研究のための旅費を計上したが、共同研究者が同時にKavli Institute for Theoretical Physicsの滞在型研究プログラムに参加することになり、同研究所からの宿泊費等の支給によって賄うことができた。また、数値計算のためのワークステーション購入費を計上したが、2016年度は共同研究者のYin-Chen He氏が主に当初所属機関のMax-Planck研究所の計算機を利用することで必要な数値計算を賄うことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
電気分極とゲージ不変性に関する国際共同研究を推進するため、共同研究者のYuan-Ming Lu、Yin Rang氏らを訪問するための旅費として使用する。 また、量子異常の応用に関する国際共同研究を推進するため、研究協力者のTarun Grover氏、Gil-Young Cho氏らを訪問するための旅費として使用する。
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