研究課題/領域番号 |
16K05474
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
上江洌 達也 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (10160160)
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研究分担者 |
清川 修二 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (20177950)
木本 智幸 大分工業高等専門学校, 電気電子工学科, 教授 (30259973)
雑賀 洋平 群馬工業高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (40280432)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 古典XYモデル / 位相振動子系 / SKモデル / スピングラスオーダーパラメータ / 臨界指数 / 対応関係 |
研究実績の概要 |
(1) ランダムでフラストレーションのある相互作用の場合の対応関係 前年度まで、スピングラスオーダーパラメータqや局所場(LF)について、数値的に対応関係の有無を調べてきた。qについては、振動子系でシステムサイズを増やした時に、必ずしもXYモデルの理論値との一致が良くならないことが分かった。この原因は、振動子の位相やLFの振幅や位相がインターミッテントな振る舞いをすることにあると考え、時間平均した振動子の位相を用いて計算したqavを理論値と比較したところ、システムサイズを増やすにつれて、一致が良くなることが分かった。これは、振動子系での短時間での揺らぎをならした長時間での振舞いがXYモデルの平衡状態と対応することを意味しており、重要な知見である。一方、LFについては、振動子系とXYモデルは数値結果がよく対応する。そこで、LFの理論式を近似的に導出すること試みた。振動子系では、最も長いタイムスケールで時間平均を行って自己無撞着方程式を導出した。XYモデルでは、オンサガー反跳項を計算して、TAP方程式を導出した。各々、シミュレーションと比較すると、高温領域を除いてほぼ一致した。また、両系の理論結果同士もほぼ一致した。従って、スピングラスオーダーパラメータのときと同様に、LFについても、非同期解も含めた時間平均した量による自己無撞着方程式が対応するという知見が得られた。 (2) 連想記憶型相互作用を拡張したアミット型相互作用における対応関係 XYモデルで連続アトラクタ(CA)が存在する事を理論及び数値計算で確認し、振動子系で、CAに対応する解が時間変化するリミットサイクルやカオス解である事を数値的に確認した。 (3) 一次元トーラス上の短距離相互作用でランダムネスが無い場合 外場への応答、臨界指数δの値について、モンテカルロシミュレーションやBP法、オイラー差分を用いて数値的に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は以下の7種類であった。各々の状況について記す。 a. 2次元トーラス上のメキシカンハット型相互作用の解析。平成28年度に17個の実の秩序変数を有する場合を扱った。その結果、両系で同じ種類の安定解が複数個存在する事を明らかにした。秩序変数だけでなく、2次元トーラスの2つの独立な軸の周りの回転数も対応することを明らかにした。b-1. バイナリー型のランダムネスを含む無限レンジ相互作用系の臨界現象。平成28年度に臨界指数の間のWidomの等式が両系において成立することを示した。c. ランダムな相互作用を持つ物理系。平成28年度ー30年度に、SK型相互作用について、スピングラスオーダーパラメータqと局所場(LF)について調べ、振動子系では、時間平均をとった量を用いる事により、両系で対応関係が成り立つことを示した。d. 非局所相互作用の系。平成28年度に、1次元トーラス上の非局所相互作用の場合に、自己無撞着方程式に対応関係が存在する事を示し、理論結果を数値計算により確認した。b-2. 1次元トーラス上のメキシカンハット型相互作用の臨界現象。令和元年の課題とする。e. 短距離相互作用の系。平成29年度、30年度に、1次元の最隣接相互作用の場合に、周期境界条件と自由境界条件について、エネルギーの対応や外場への応答の対応について調べた。XYモデルにおいて、モンテカルロシミュレーションとBP法で、エネルギーについては一致したが、オーダーパラメータについては一致せず、従って、振動子系との対応の有無も不明である。令和元年に更なる数値計算を行う。b-3. 1次元トーラス上の非局所相互作用の臨界現象。平成29年度に理論解析を行った。令和元年に、数値解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
1次元トーラス上において、b-2. メキシカンハット型相互作用及びb-3. 非局所相互作用の臨界現象、e. 短距離相互作用の系 の理論計算および数値解析を行い、その結果及びこれまでの研究をまとめて論文として出版する作業を行う。具体的には、以下の3つの内容の論文を出版する。 (1) SK型相互作用:第一論文は既に投稿しており、現在、レフェリーコメントへの対応中。この論文では、スピングラスオーダーパラメータqについて、振動子系では、時間について平均化した量を用いると対応がつくことを数値的に示した。また、LFについては、時間依存しない場合、即ち、低温や自然振動数の標準偏差が小さい場合を扱った。その後、LFが時間変化するときに自己無撞着方程式を導出し、シミュレーションと比較しており、その結果を、第二論文として投稿予定である。(2) 次元や相互作用の到達距離を変化させたときの自己無撞着方程式の対応関係:これまでの研究で、2次元トーラス上のメキシカンハット型相互作用と1次元トーラス上の非局所相互作用の場合について、自己無撞着方程式と数値結果が一致すること、自己無撞着方程式の対応がつくことを明らかにしている。この結果は、安定性も対応することを意味する。以上の結果を論文にまとめる。(3) 臨界現象の対応:ランダムネスのある無限レンジ相互作用や、1次元トーラス上のメキシカンハット型相互作用や非局所相互作用における臨界指数の関係(Widomの等式)の成立やその対応関係、1次元系で周期境界条件(トーラス)や自由境界条件のときの外場への応答の臨界指数の対応について、追加の数値計算を行い、論文にまとめる。 更に、新たな課題、2次元最隣接相互作用に取り組む。XYモデルでは、渦のあるなしの相転移、コスタリッツーサウレス転移、が存在する。位相振動子系でどのような相が出現するのか調べ、対応関係を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文を投稿中であり、さらに数編執筆中であるが、出版が次年度にずれ込むため、論文添削料や投稿料の支払いが、年度中にできないため。また、統計物理学国際会議が2019年7月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されるが、そこで研究成果を発表し、海外の研究者と交流し、研究成果を深化させるが、その旅費などが必要であるため。更に、次年度の物理学会でも、学生を含む数名が成果を発表するが、そのための旅費などが必要であるため。 使用計画は、上記のように、論文添削料、論文投稿料、海外出張旅費、国内出張旅費のほか、数値計算用のコンパイラーの購入、図書費、ノートパソコンの購入費など。
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