研究課題/領域番号 |
16K05477
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高橋 公也 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (70188001)
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研究分担者 |
高見 利也 大分大学, 工学部, 教授 (10270472)
小林 泰三 帝京大学, 福岡医療技術学部, 准教授 (20467880)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 流体音 / 木管楽器 / 遅延方程式 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、管楽器の発音機構の物理的な解釈を与えることである。解析には、音響-流体的なアプローチと遅延方程式モデルを用いたアプローチの2種類の方法が使われる。 流体-音響的なアプローチは流体音理論に基づいた厳密な方法で、圧縮流体の数値計算を用いてエアリード楽器の解析を行い、流体音源とそこからの流体音発生の機構について解析する。ここまでの研究は以下の通りである。 まず、エアリード楽器の音源となるエッジトーンの圧縮性LESを用いた高精度解析を行い、音響エネルギーが中速領域でジェットの流速の4乗に比例することを発見した。これは従来の予想とは異なる新たな結果である。 また、3次元エアリード楽器モデルのLESを用いた解析を行い、Howeのエネルギー推論を用いてジェットの後流部分から音響エネルギーの発生が起きている可能性が高いことを示した。 さらに、音孔のついた円筒管の2次元モデルのLESを用いた解析を行い、音孔部分で音波が流体に変化して渦が発生する様子を再現し、Howeのエネルギー推論を用いて音響エネルギーが流体エネルギーに変化していることを確認した。さらに、音孔の開閉を再現する解析を行い、音孔を閉じる過程を再現することにほぼ成功した。 遅延方程式を用いた解析では、2つの音孔を取り付けた円筒管に相当する3重遅延系のモード選択則を線形安定性解析を用いて考察した。長い遅延tfが開口端反射に対応し、2つの短い遅延t1、t2が音孔からの反射に対応する。その結果、定在波の発振は遅延比に極めて敏感に依存することが分かった。遅延比が全て奇数比になる場合には安定な発振が見られるが、それ以外の場合には、不安定な発振が見られる。特に、tf=t1+t2の関係がある場合には極めて強い不適合性を示し、その近傍で高次高調波の発振が見られる。ただし、実際の楽器ではこのような指使いをすることはない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エッジトーンの解析では、当初DNSを用いた解析まで行う予定であったが、まだ、DNSの解析は準備段階である。しかし、LESによる解析で十分な精度が得られ、音響エネルギーが中速領域でジェットの流速の4乗に比例すること(4乗則)を発見したことは、次年度以降の計画を先取りしたことになる。この結果は、従来の予想とは異なる新たな結果であり、ヤマハ(株)から提供された実験の結果と一致する。今後、DNSの解析を進めLESの結果の検証を行う予定である。 3次元エアリード楽器モデルのLESを用いた解析では、Howeのエネルギー推論を用いてジェットの後流部分から音響エネルギーが発生していることを突き止めた。これは、当初の予定通りである。 音孔のついた円筒管の2次元モデルのLESを用いた解析を行い、Howeのエネルギー推論を用いて音孔部分で音響エネルギーが流体エネルギーに変化し渦が発生していること示した。これは、当初の予定通りである。さらに、音孔の開閉を再現する解析を行い、音孔を閉じる過程を再現することにほぼ成功した。これは当初の予定にない結果である。 遅延方程式を用いた解析では、2つの音孔を取り付けた円筒管に相当する3重遅延系のモード選択則を線形安定性解析を用いて考察した。その結果、発振に適合した音孔の配置と非適合な音孔の配置を明らかにした。この結果は楽器の音孔の位置と発振音に関係について重要な示唆を与える。これは、当初の予定を十分に達成した結果である。 これらのことから、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。流体-音響的なアプローチの3つの課題については以下のように進めていく。 まず、エッジトーンの解析に適した圧縮性DNSの開発を行い、低レイノルズ数領域におけるエッジトーンの再現を行い、LESの結果と比較しLESの精度検証を行う。精度が不十分な場合には、LESの計算法を再検討し、高精度化を図る。これらの結果を踏まえて、高レイノルズ数におけるエッジトーンの性質を調べるためにLighthillの音源を計算し、Lighthillの音源から遠方音場を再現する方法の開発に挑む。 3次元のエアリード楽器のモデルの解析では、より現実的なオルガンパイプモデルの解析を行い、歌口の形状が発音機構に与える影響について詳細に検討する。また、フルート等の横吹きの楽器の解析にも着手する。 音孔の機能の解析では、3次元モデルの解析を行い、音孔部分で音波が流体に変化して渦が発生するメカニズムを詳細に検討する。また、音孔の開閉を再現する計算法(トポロジー変化に伴う移動境界問題の計算法)の確立を目指す。 遅延方程式を用いた解析では、音孔の配置と発振条件の解析をより厳密に行うために、その基礎となる2重遅延系における線形安定性解析の数学的な基礎づけに挑む。解析の道具となるのは連分数展開等の初等整数論であり、遅延比とモード選択則の関係を整数論的に考察する。また、4重、5重遅延系の線形安定性解析を進め多重遅延系(音孔がたくさん開いている場合)のモード選択則について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越し金が出た主な理由は、当初700,000円としていた物品費が391,353円となったためである。 詳しくは、計算サーバーを購入予定であったが、内部資金でより高性能なサーバーを導入できたため予定していたサーバーを購入しなかった。そこで、物品費は計算機周辺機器やサーバーから出た大量のデーターを保管するために必要なハードディスクの購入にあてた。
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次年度使用額の使用計画 |
大規模な数値計算により生み出される大量のデーターを保管するのに必要なファイルサーバーの購入およびデーター保存に必要なハードディスク等の消耗品の購入にあてる予定である。
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