本研究の目的は、管楽器の発音機構の物理的な解釈を与えることである。解析には、流体音響的なアプローチと遅延方程式を用いたアプローチの2種類の方法が 使われる。 流体音響的なアプローチの成果は以下の通りである。1) DNSを用いて2次元エッジトーンの厳密解析を行い、ジェットの流速の上昇によって起きる1次モードから 2次モードへの遷移を再現することに成功した。両モードとも、音響エネルギーが流速の5乗に比例する双極子音源であるが、2次モードの方がエネルギーが相対的に小さい。さらに、小型エアジェット楽器の2次元モデルの解析を行い、発振に成功した。2)エアジェット楽器の解析では、オルガンパイプの解析を行い、フットの役割を明らかにした。また、ヘルムホルツ共鳴器を共鳴体として持つオカリナのLESを用いた3次元解析に成功した。さらに、小型エアジェット楽器の3次元モデルの解析を行い。Howeのエネルギー推論を用いて音響エネルギー発生の評価を行ない、実験の結果と定性的定量的によく一致することを確認した。 3)クラリネットのマウスピースのLESを用いた3次元解析を行い流体音の発生を確認した。4)音孔の開閉(トポロジー変化を伴う動的境界問題)を再現する方法を確立し、開閉に伴う音場と流体場の変化を再現することに成功した。 遅延方程式の解析では、現実のクラリネットに近いモデルの計算を行い、3倍音を発振させるレジスターホールの詳細な解析を行なった。基礎研究として、遅延応答関数の非分散極限(特異摂動極限)では、遅延比が有理数になる場合には多次元写像に帰着できることを示し、その写像の性質を介して、通常の分散状態の2重遅延系の分岐構造やアトラクターの性質が決まることを示した。この研究成果は、管楽器のような複数の音孔を持つ複雑な多重遅延系の発音機構の解析の基礎となるものである。
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