研究実績の概要 |
本研究の前提となる長距離相互作用を持つ1次元スピン系の緩和過程の解析に修正が生じたため, 緩和過程の再確認を行った(関連論文: Y. Tomita, Phys. Rev. E 94, 062142 (2016)). 緩和過程の再確認を行う中で明らかとなった事項は以下の通りである. (1) 液滴模型から予想される緩和過程と長距離相互作用を持つ1次元スピン系の緩和過程は大筋で一致する: 今回用いたスピン模型は距離のべき乗で減衰する相互作用を持っている. 臨界点におけるスピン模型の普遍クラスはその減衰のべきの大きさで決まる有効次元に依存することが知られているが, 秩序相におけるスピンの緩和ダイナミクスも同じ有効次元と液滴模型から予想される緩和とほぼ一致する. (2) 1次元スピン系が形成する秩序化したドメインの表面次元は分布を持つ: 通常の短距離相互作用を持つスピン系では, 秩序相におけるドメインの次元は相互作用が形成する格子の次元に一致する. しかし, 長距離相互作用を持つ1次元スピン系の緩和ダイナミクスは模型の有効次元のみで決定されることはなく, 緩和ダイナミクスに寄与するドメインの表面次元は分布していることが示唆された. 表面次元に分布があることは, ダイナミクスの質的変化が生じる次元近傍では大きな緩和過程の解析に大きな影響を及ぼす. ダイナミクスに対する臨界的な次元の上下で, 不純物のない強磁性模型では引き伸ばされた指数緩和と単純な指数緩和が, 不純物のある強磁性模型(希釈模型)ではべき緩和と単純な指数緩和が混じる緩和ダイナミクスが生じるので, 少なくとも2つのタイプの緩和ダイナミクスを仮定した解析が必要となる.
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に行なった長距離相互作用を持つ1次元スピン系の緩和過程の見直しにより, 長距離相互作用を持つ系の緩和過程の解析がそれほど自明ではないことがわかり, その原因となる物理的背景(緩和ダイナミクスに寄与するドメインの次元が分布していること)が明らかとなり, 液滴模型に基づいた解析手法についても確認することができた. この研究により1次元スピン系の緩和ダイナミクスは表面次元に分布のある液滴を考えることで理解できることが示された. 今後はこの知見に基づいて格子変形を伴う1次元スピン系の構造相転移の数値計算とその解析を行う.
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