研究課題/領域番号 |
16K05483
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
渡辺 一之 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 教授 (50221685)
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研究分担者 |
鈴木 康光 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 助教 (50756301)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子散乱 / 交換相関項 / 時間依存密度汎関数法 / レーザー刺激電界蒸発 / レーザー刺激電界放射 / 表面陽電子状態 / 二次電子放出 / 二成分密度汎関数法 |
研究実績の概要 |
4つの課題、1)ナノ構造表面電子散乱と二次電子放出(SEE)機構の解明、2)フェムト秒レーザー刺激電子放出・原子蒸発とAPTへの応用、3)固体表面の電子と陽電子散乱機構の解明、4)TDDFT法に適合する実効的交換相関項の構築、について研究を進めている。 項目1では、単層と二層のグラフェンの電子散乱のTDDFTシミュレーションによって弾性散乱の透過率のエネルギー依存性を決定した結果、実験と良い一致を示した。同数値計算法で、グラフェンとシリセンからの角度分解二次電子放出スペクトルを計算した結果、二次電子は非占有軌道の特徴的な準位から放出されることがわかり、実験結果の理論検証も行った。同じくTDDFT法を使って、先端構造の異なる対向電極間に光電場を照射することにより、ナノスケール整流作用が出現することを示した。以上3つの成果はそれぞれ論文に発表した。 項目2では、カーボンナノチューブにフェムト秒レーザーを照射した際、レーザー方向に強く依存してプラズモン励起が生じ、それに伴って電子が放出される機構を明らかにし、実験事実をよく説明することができた。結果は論文に発表した。 項目3では、TiO2表面の陽電子刺激原子脱離に関する実験との共同研究で、二成分密度汎関数(TCDFT)法によって同表面陽電子状態を明らかにすることで実験結果をよく説明することができた。結果は論文で発表した。 項目4では、研究分担者の鈴木が中心となって、電子散乱効果を正しく記述する交換相関汎関数開発に向け、厳密な交換相関項の初期Kohn-Sham状態依存性を解析し、また、厳密交換ポテンシャル、および非断熱交換相関ポテンシャルの有効性と欠点を明らかにした。本成果を論文に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目1では、平成28年度に開発完了したプログラムKENSを使って、原子層の角度分解二次電子放出スペクトルを決定し実験結果の理論検証ができた。現在は、原子層の電子散乱の透過率の低エネルギーでの微細構造の解析を進めている。その後、原子層の層数に依存したSEE機構を明らかにしてゆく。当初の予定通り順調に進んでいる。 項目2については、レーザー照射カーボンナノチューブのプラズモン励起と電子放出の相関を明らかにしたので、現在はその関係物理量の有限温度効果を調べて結果を得ているので、8月の欧州表面国際会議で発表する予定である。この項目についても、研究は順調に進んでいる。 項目3では、TCDFT法によりTiO2表面の陽電子刺激原子脱離に関係する表面陽電子状態を決定し、現在は時間依存TCDFT法のプログラム(TD-TCDFT)開発を成功させ、それを用いた応用研究に着手している。この研究課題は予想以上に進んでいる。 項目4では、本年度、TDDFTで電子散乱過程を正確に記述するための重要な要素、すなわち、初期Kohn-Sham状態の選び方と、厳密な交換相関項の一つの成分が再現できない運動項の重要性を明らかにした。これらの成果は年度初めに立てた計画をおおむね達成し、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
項目1では、現在は、原子層の電子散乱の透過率の低エネルギーでの微細構造の解析を進めている。それによって、基板から放出する二次電子が原子層で減衰する機構を明らかにしたい。その後、グラフェン他原子層状物質の層数に依存したSEE機構を明らかにしてゆく。 項目2では、現在、レーザー誘起電子放出に対する有限温度効果の解析を行っている。それに続き、電子の励起エネルギーが原子系に移動した後の原子の運動と脱離の機構を明らかにするために、TDDFT電子計算の結果を原子の分子動力学法に接続する方法を開発する。 項目3では、TD-TCDFT法のプログラム開発が一段落したので、陽電子-電子-原子核からなる系の励起状態をTD-TCDFTによって追跡し、相関動力学を明らかにする。すでに、予備的な計算は終了し、詳細な数値解析に移行し、すでに興味深い結果を得ている。 項目4では、H29年度までに電子散乱過程における交換相関項の初期状態依存性および運動項の解析ができたので、H30年度はそれを再現する近似交換相関項の開発を行う。運動項の重要性がわかったので、それを密度行列の時間発展の近似計算から構築する方法に基づく開発を行っていく。また、三次元多電子散乱系への応用計算も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 旅費はほぼ予定通り支出したが、物品購入が少なかったので物品費に余剰金がでた。 (使用計画) 平成30年度は、残高95,157円の一部を記憶媒体等の物品購入に充てる。
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