研究課題/領域番号 |
16K05488
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山中 由也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10174757)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 場の量子論 / ゼロモード / アルファクラスター模型 / 自自発的対称性の破れ / 冷却原子系 |
研究実績の概要 |
自発的対称性の破れに伴うゼロモードの量子揺らぎを、それが顕著に現れる有限サイズ非一様系において、場の量子論で新たな矛盾のない定式化に基づいて、結果として生ずる物理的効果に関して理論研究を行った。平成28年度については研究計画に述べた課題中、二つの課題について具体的成果を得た。 先ず、原子核12Cのアルファクラスター状態について、ポテンシャルによって閉じ込められたアルファ粒子凝縮という描像の下、我々の定式化に基づいてHoyle状態を含むエネルギー準位を導出したことである。結果は学術雑誌(Phys.Rev.C94 (2016) 014314)に発表した。ゼロモード量子揺らぎに由来するエネルギー準位の存在が重要で、その存在によって観測されているスペクトルとよく一致している。従来の原子核アルファクラスター模型による解析とは異なり、アルファ粒子凝縮に伴うゼロモード量子揺らぎが本質的という、全く新たな物理描像の提案となっている。 また、ポテンシャルによって閉じ込められた冷却原子がBose-Einstein凝縮している系に、我々の定式化を有限温度場の量子論に用いて、分配関数などを計算することによってゼロモード量子揺らぎがどの程度影響するかを定量的に解析した。こうした系は世界的に実験が盛んに行われており、理論検証が可能である。今回の計算では励起モード間と励起モード―ゼロモード間相互作用はないという近似計算に限った。効果としては、比較的弱い原子間相互作用の場合ゼロモード量子揺らぎが顕著になり、具体的に凝縮粒子数の減少や比熱の増大ということで観測可能であることを示した。研究成果を学術論文(Ann.Phys. 376 (2017) 484)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績概要に述べたように、原子核12Cアルファクラスター状態への応用と冷却原子系での有限温度場の量子論の理論計算で成果を得た。前者については、さらにアルファ粒子数の多い16O、20Ne、…、40Ca原子核のエネルギー準位を計算中である。その際、12Cの計算で不十分であったゼロモードではない通常の励起状態エネルギーの計算を正しくやり直している。冷却原子系有限温度の計算では相互作用に関する近似の精度を上げる必要があるが、ゼロモード部分について通常の生成・消滅演算子の形で書けないため、摂動計算のFeynman法が使えない点が障害となっていて、次の解析には時間が掛かりそうである。 一方で平成29年度以降の研究計画に挙げた重要なテーマに既に取り掛かっている。一つは非一様冷却フェルミオン原子系でBCS理論のように2体チャンネルにゼロモードが現れる系の研究である。面倒なグリーン関数による準備段階の定式化が進んでいる。もう一つは、秩序変数が時間変化する非平衡相転移過程記述を目指すテーマに関連して、これまで凝縮のない、従ってゼロモードも存在しない場合においてさえ非平衡非一様系における繰り込み条件の問題が決着されていなかったが、最近矛盾ない条件を見出すことができた。繰り込み条件から量子輸送方程式が導かれる我々の立場では極めて重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題としては、現在の進捗状況や研究の重要性を鑑みて、研究計画で挙げた項目数を整理し次の4項目を主要課題とする。それらは、(1) アルファ粒子数の多い原子核への応用、(2) 冷却原子系に対する有限温度場の量子論でゼロモード量子揺らぎ効果の計算、(3) 非一様冷却フェルミオン原子系における原子対凝縮の定式化、(4) 非平衡非一様系に対して量子輸送方程式を与える繰り込み条件の研究、である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、参加すべき国際会議が少なかったことと国内会議も東京近辺が多く、出張旅費支出がが少なかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度、平成30年度はより多くの出張旅費が見込まれるので、最初の計画より出張旅費を増額する予定である。
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