研究実績の概要 |
平成30年度における主な研究成果は、有限サイズ非一様系での自発的対称性の破れに関する理論研究で得られた。 先ず原子核のアルフ粒子凝縮系の研究で、以前発表したHoyle状態を含む3個のアルファ粒子の12Cに対する研究を発展させて、アルファ粒子4個から13個でできた16Oから52Feまでの原子核を対象に研究を行った。我々の理論に特徴的なゼロモード由来の離散的準位を含むエネルギースペクトルとガンマ崩壊幅を計算で求めた。従来の原子核理論の計算ではアルファ粒子数増加に伴い著しく計算が複雑になるのに対して、我々の方法では計算の複雑さは粒子数に依らないため計算可能であった。成果は学術雑誌論文として発表した(Phys.Rev.C98, 044303)。また、16Oについてはさらに詳細な研究を行い、実験で確認されているエネルギー準位が我々の理論計算で説明されることを示した(国際会議 State of the Art in Nuclear Cluster Physics, (Texas, USA)と日本物理学会で発表)。 もう一つの研究は、光学共振器に入った有限個原子の冷却子系の実験での超放射相への相転移が観測されたことに関するものである。この相転移は、無限個の熱力学的極限で論ぜられる静的性質として相転移とは異なる視点から説明されなければならない。我々は有限自由度を有する開放系の動力学の観点から、上述の実験系を環境と相互作用するDicke模型で記述し、量子マスター方程式を導出し、解析した。有限自由度系では定常状態としてではなく、緩和過程で長寿命状態として超放射相構造が現れること、それには散逸の存在が本質的であることを明らかにした。成果は学術論文に発表した(Phys.Lett.A382, 3333; J.Phys.Soc.Jpn. 88, 024401)。
|