研究課題/領域番号 |
16K05500
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
榎本 勝成 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (50452090)
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研究分担者 |
梶田 雅稔 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所時空標準研究室, 主任研究員 (50359030)
小林 かおり 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (80397166)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子分光 / 超伝導 / マイクロ波 / 低温分子 / 精密測定 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、分子の並進運動の操作と対象となるPbO分子について精密分光を行った。レーザーアブレーションとヘリウムバッファーガス冷却により、低温低速で高流量のPbO分子が得られており、これを用いて400-430 nm程度の波長領域にあるX(0)-B(1)電子遷移の分光を行った。超低膨張エタロンの共鳴周波数との比較により、10 MHzの精度で絶対周波数が測定でき、超微細構造や他準位による摂動について詳細な解析を行った。この成果については5月中に論文を投稿する予定である。 また、カナダのブリティッシュコロンビア大学との共同研究を行い、放電によって生成されたCH3分子のゼーマン減速と磁気トラップの研究や、分子のトラップに向けたファブリーペロー型の超伝導マイクロ波共振器の開発を行った。前者については各種の最適化を進めて信号強度を高め、トラップ中の分子の衝突の実験に着手した。後者については、銅製の凹面ミラーを作成し、鉛と錫の合金によるメッキを行い、冷凍機で4 K程度まで冷やすことで、超伝導の共振器を実現した。理論的には10の7乗程度のQ値を期待していたが、現状では10の6乗程度のQ値であり、マイクロ波を導入するアンテナの形状や、回折損失の低減方法などについて、検討を進めている。 また、これ以外にも分子の高感度検出方法の開発について、京都大学との共同研究に着手した。 また、理論面でも非常に精力的に研究が進められ、計5本の論文が掲載された。窒素分子イオン、酸素分子イオンの振動回転遷移周波数の到達可能な精度について解析し、両者はこれまでの原子時計を上回る確度を得る可能性があることを示した。その一方で、微小原子時計の周波数安定度を与えるための条件も解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画と若干の前後があるが、1年目としては概ね順調である。特に、理論面での研究の進展が著しく、極低温分子気体の有用性が立証されている。
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今後の研究の推進方策 |
超伝導マイクロ波共振器を用いた分子の減速器の改良については、熱流入対策などを中心にさらに進めていく。また、低温低速分子ビームについては、2段階バッファーガス冷却と呼ばれる、さらに低速の分子を得る手法が他のグループによって開発されているので、そういった手法を取り入れていく。また、前年度の共同研究で得られた知見を活かし、放電による分子の生成などをより詳細に検討し、減速・捕捉に適した分子の絞り込みを進めていく。 また、分子の検出感度の向上は、本研究だけでなく他分野にとっても重要な課題であり、引き続き京都大学との共同研究を進めていく。 本年度は特に、分子のトラップ用のファブリーペロー型超伝導共振器の性能の評価や向上を進めていく。具体的には、共振器側面のカバーによる回折損失の低減や、マイクロ波定在波の安定化のためのフィードバックシステムの開発などを進める。富山大学とブリティッシュコロンビア大学とで並行して開発を進め、それぞれの装置で分子のトラップの実現を目指す。 また、理論面についても引き続き研究を進め、分子の振動回転遷移周波数の精密計測実験で行われるようにNICT内の実験研究者、上智大学、東京大学、富山大学などと協力していく。その一方で、微小原子時計の正確さを制限する要素を検討、実用化に向けて貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りではあるが、旅費が想定より少なく済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
主に消耗品の購入に充てる。
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