研究課題/領域番号 |
16K05501
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 則雄 京都大学, 理学研究科, 教授 (10169683)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 冷却原子系 / 非平衡量子現象 / 強相関系 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本年度は、レーザーにより誘起されたトポロジカル超伝導相、レーザーによる近藤効果の制御・相転移の誘起、周期的に時間駆動されたボーズハバード系などについて研究した。 (1)レーザー誘起によるトポロジカル超伝導:トポロジカル量子相の典型例としてトポロジカル超伝導がある。しかしながら、超伝導の候補物質の系統的な探索はそれほど簡単ではない。ここでは、固体物理で多く発見されているd波超伝導体の薄膜にレーザーを照射することで、トポロジカル超伝導が発現することを示した。これと同様の効果は、磁場を印加することで提案されているが、レーザー誘起現象ではボルテックスが誘起されないので、超伝導状態を保持しやすいという特長を持つ。 (2)時間駆動された近藤絶縁体:スレーブボゾン法と呼ばれる理論手法を用いて、周期アンダーソンモデルを取り扱い、2つの重要なな効果を見出した。一つは、動的局在と呼ばれるもので、これは電子ホッピングや混成を弱める働きがあり、近藤効果の抑制あるいは増幅効果を持つ。もう一つはレーザーに誘起された電子ホッピングと混成であり、これは磁場やスピン軌道相互作用の役割を果たす。これらの効果を基に、近藤絶縁体のレーザー誘起トポロジカル相転移の性質を明らかにした。 (3)周期的に駆動されたボーズハバード系のプレサーマル・フロケ定常状態:周期的に駆動された多体系で生じるheatingへの散逸の効果を調べた。特にエネルギーと粒子の熱浴に結合したボーズハバード系を考えた。散逸が無いときは、パラメトリック不安定性を示すことが知られている。弱い相互作用かつ弱い熱浴との結合の極限では、散逸の効果が大きくなると、パラメトリック不安定性が抑制され、安定な状態が出現することを見出した。ここで得られた結果は、周期駆動された系から放出したエネルギーが外部熱浴に吸収され、heatingを抑制することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非平衡系におけるレーザー誘起トポロジカル相転移に関しては、当初の予想以上に面白い結果を得ることができた。特に、トポロジカルに自明な銅酸化物高温超伝導体にレーザーを照射することでトポロジカル超伝導が生じることはたいへん興味深い。このためには、薄膜を用いることが本質的である。このレーザー誘起トポロジカル超伝導の考え方は他の強相関超伝導体にも応用することができる。 また、時間駆動された近藤絶縁体における、レーザーによる近藤効果の抑制・増強のメカニズムを解明できたことは大きな収穫であった。このことは、レーザーによる近藤効果の抑制・増強を通して相転移を制御できる可能性を示唆するものである。 さらに、周期的に駆動されたボーズハバード系のプレサーマル定常状態に研究を展開できたことは収穫であった。散逸の効果によって、パラメトリック不安定性が抑制されるかどうかは、非自明な問題である。ここでは、パラメトリック不安定性が抑制され、安定な状態が出現する条件を明らかにすることができた。この成果によって、周期駆動された系のheatingの抑制に関する理解が深まった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでの研究を発展させ、時間駆動による非平衡量子系の研究を行う。特に、時間周期系で最近発見された「時間結晶」(Time Crystal)にも研究を展開する。この発現舞台としてフロケ量子系が用いられている。種々の時間結晶を実現するプロトコルと、さらにその実験検証の舞台も提案する。 さらに、近年、冷却原子系で実現されたトポロジカルポンプに関しても、相互作用の効果に注目した研究を行う。これまでに実験的に実現されたポンプ現象では、相互作用の効果が重要ではなかった。相互作用によりトポロジカルポンプが破綻すると考えられるが、どのような条件の下、不安定性が現れるか明らかにする。 量子開放系にもさらなる研究展開を行う。特に、最近大きな興味を集めているPT対称性(パリティ時間対称性)を持つ非エルミート量子系を重点的に調べる。これに関しては、エネルギーの流出入のある光学系での「量子ウォーク」に焦点をあて、理論による現象の予言と具体的な実験提案を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算は主に旅費に充てている。本年度は、研究協力者であるPeteres氏がスウェーデンの国際会議に出席した。また、本テーマに関して研究指導している博士課程の高三氏がドレスデンの国際会議に出席し、その後マックスプランク研究所に滞在し共同研究を行ったものも含まれる。これらがH29年度の主な支出となった。次年度使用額が生じた理由には、代表者が専攻主任の任にH29年度あったため、出張がしにくかったという事情もある。 平成30年度には本研究テーマに関連する国際会議や国内会議が多いので、研究成果発表ならびに研究打ち合わせとして、予算を使用予定である。
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