本年度は、冷却原子系における強相関効果に重点を置いて研究を進めた。とくに相互作用により誘起されるトポロジカル相、サウレスポンプへの相互作用の影響とブレークダウン、引力ハバード相互作用による超伝導・電荷密度波・スピン密度波の競合などに関して研究成果が得られた。 (1)相互作用により誘起される新奇トポロジカル相: トポロジカル相に関する、残された重要な課題の一つにトポロジカル分類の相互作用によるリダクションがある。しかしながら、これを検証する実験舞台はほとんど提案されていなかった。本研究では、冷却原子系を用いて、相互作用による分類のZ->Z4へのリダクションの舞台を提案し、実験的な観測方法を詳細に調べた。 (2)サウレスポンプへの相互作用の影響:近年、サウレスポンプは冷却原子系で実現され大きな興味を集めたが、これまで相互作用のない自由原子系が対象であった。ここでは、サウレスポンプへの相互作用効果を系統的に調べた。相互作用がある閾値を超えるとトポロジカル相のギャップが閉じ、サウレスポンプがブレークダウンすることを示した。さらに相互作用の効果はエッジ状態に顕著に表れることを示した。ここでの結果は従来の非摂動的な扱いを超えたトポロジカルポンプの安定性の系統的な議論を可能とするものである。 (3)近藤格子系における超伝導・電荷密度波・スピン密度波の競合:冷却フェルミ原子系では近藤格子模型の実現が近い将来可能になると考えられている。フェッシュバッハ共鳴を用いることで遍歴フェルミ原子間の引力相互作用を変化させることが可能となる。ここでは、引力相互作用を含む近藤格子系で超伝導・電荷密度波・スピン密度波の競合を調べた。その結果、超伝導とスピン密度波の共存相を見出し、超伝導がスピン密度波を増強することを明らかにした。 (4)この他にも、時間結晶や非エルミート強相関系の研究などにも成果が得られた。
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