研究課題/領域番号 |
16K05505
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
金本 理奈 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (00382028)
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研究分担者 |
斎藤 弘樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60334497)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 力学的振動子 / 光共振器 / 多体量子系 / 自励振動 / 協同効果 |
研究実績の概要 |
電磁場と複数の力学的な振動子とが共存する量子多体系のダイナミクスを明らかにすることが本研究の目的である。本年度は主に二つの研究を行った。 (1) 半導体微小共振器におけるエキシトンと共振器光子との強結合によって生じるエキシトン-ポラリトンのボース凝縮体(BEC)は、準粒子間に非線形相互作用を有することが知られている。ポラリトンBECはエネルギーの利得と散逸のある開放量子系である。一般にこのような開放系では、利得が閾値を超えると自励振動が生じると考えられている。本研究では、利得をもたらすポンプ光を特徴的な幅をもつガウシアンにすることにより、一様なポラリトンBECに不安定性が誘起されて空間的に局在し、定常状態では自発的に回転対称性の破れた回転運動(自励回転)をすることを見出した。更に二つのガウシアンでポンプしたときは、ピーク間距離に応じて、2つの局在BECの回転運動が同期することを示した。 (2) Van der Pol(vdP)模型は、自然界の多くの非線形現象を記述する古典模型として知られている。ファブリ-ペロー光共振器内の定在波の腹の部分に複数の薄膜振動子を配置すると、振動子は共振器フォトンを介してグローバルに結合する。共振器の散逸レートが大きいとき、この系は複数モードの量子vdP模型となる。本研究ではvdP振動子の量子-古典対応の解明を目指している。本年度は複数モードを有する量子vdP模型において、これまで未解明であった振幅の量子ダイナミクスを解析し、次のことを見出した。(i) 固有振動数の分布または振動子間相互作用に応じて、全振動子が基底状態近傍まで冷却できること、(ii) 量子系が本来有する揺らぎを熱的ノイズで模した古典模型と量子模型とを比較した結果、量子系の方が基底状態に近づけられること、(iii) N個の多振動子系では、Nを増加するにつれ定常状態の振幅は減少すること。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、量子vdP振動子における位相のダイナミクスに主に着目して研究を行ってきたが、ここで得られた成果と本質的に同じ結果が、海外の複数の研究者から次々と報告があがってきた。そのため本年度は、これまでに調べられていなかった振幅のダイナミクスを調べる方に方向性を変え、量子力学的な解析をおこなった。力学的な振動子の振幅はフォノン数と等価であり、オプトメカニクス研究における振動子の共振器冷却への応用・代用としても興味深く、解析を進める上で、雑音の影響や、振動子数への依存性(サイズ効果)など、明らかにすべき点が予想以上に生じてきた。これらの解析は1年間で大幅に進展し、各論点について結論が得られたが、論文にまとめ出版するまでにはいたらなかった。2017年度は早急に2016年度に得られた結果を論文にまとめる所存である。 一方、ポラリトンBECの自励運動と同期現象に関する成果は、2次元の回転運動も1次元の振動運動と同様に扱えることを示唆するものであり、当初計画には無かった試行から生まれた予測以上の成果であると言える。 以上のことから、初年度の研究はおおむね順調に進んだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、2016年度に得た量子vdP模型の振幅ダイナミクスに関する解析結果をまとめると同時に、次の部分を更に掘り下げていく。(i) 共振器および振動子として、ファブリ-ペロー共振器中の薄膜の他に、トロイド型共振器光子と相互作用する微小球、および超伝導回路においてマイクロ波と相互作用するキャパシタを想定した場合に、到達可能な平均フォノン数を定量化する。(ii) 位相・振幅ダイナミクスの解析では、振動子数N が2~8の場合に対する厳密な多体計算の他に、無限系(N >> 1)の平均場近似による計算も行った。しかし平均場理論の枠内で定義する位相・振幅ダイナミクス各々のオーダーパラメータについては更なる解析が必要である。これらの定義を比較検討し、どのような相で二体以上の振動子-振動子相関が重要となるかを明らかにする。また、エンタングルメントとの関連も明らかにする。(iii) 現時点では少数振動子系(N=2~8)において冷却に対する協同効果が数値的に確認されている。これ以上のNでは、定常状態を求める際に現在用いている数値計算手法は限界に達するため、散逸量子多体系の定常状態を求めるための効率的なアルゴリズムを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には初年度経費で計算機を購入する予定であったが、研究を進めるにつれて多数の振動子集団のダイナミクスを扱う必要が生じ、当初予定よりも大規模な計算をすることとなった。その実施のためには予定していた性能を上回る計算機を購入する必要があったが、予算内では困難であったことから、計算機の購入は見送った。2016年度はその分を主に端末でのデータ解析のための周辺機器や、国際会議での途中成果発表のための旅費に使用したことから、初年度経費の支出に差異が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
アルゴリズムの改良を行うことによって計算機の購入は見送り、2017年度以降は議論に赴くため、或いは国内外の研究者を招聘するための旅費、および国内外の会議の旅費に主に使用する。
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