2018年度は、(1)ナノ球と中性冷却原子の分散力ポテンシャルによる散乱問題、および(2)角運動量をもつボース凝縮体(BEC)のオプトメカニカルセンシングについて調べた。
(1)ナノスケールで重要となる、物質表面-原子間の量子電気力学的相互作用(分散力)と、これが物質の重心運動に及ぼす効果を調べるため、誘電体ナノ粒子と、MOT温度領域の冷却原子との弾性・非弾性散乱断面積を明らかにした。ここで弾性散乱は、静止したナノ粒子に低エネルギー原子が入射したときに生じる量子反射の寄与を表す。結果、弾性散乱断面積は、球を剛体球とみなしたときの散乱断面積の100倍程度大きくなることが明らかになった。このことは、低速原子が入射するとき、量子反射が引き起こされる“鏡”が球の周囲に形成され、標的球の半径が有効的に大きくなることを意味する。この原子の衝突イベントのたびに,球はわずかな反跳を受ける。すなわち散乱断面積の増加は、球の受ける衝突力の増加とみなすことができる。これは,球面-冷却原子間の分散力ポテンシャルが引き起こす衝突が、球の重心運動に影響を与えることを示した重要な見解である。
(2)BECに量子渦や永久流を生成する技術は確立している一方、単連結領域ではないリング上の永久流の測定技術としては破壊測定が主流である。本研究では、永久流と光共振器および角運動量を担う光を用いることにより、原子の重心運動と共振器光のオプトメカニクス型相互作用を利用し、リング上のBECの角運動量を準非破壊的に測定する手法を提案した。ノイズスペクトルに於いて、第一サイドモードが十分な解像度で得られ、これらのサイドモードのピーク距離からBECの角運動量を測定できる。更に従来の破壊的な測定と比較して、測定感度が3桁上がることを見出した。
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