水は通常の冷却方法でガラス状態を実現することは不可能とされている。ところが、塩添加や圧力印可によりガラス化することから、塩や圧力によって変化する液体の中距離構造が、ガラス転移の起源に対して重要な役割を担っていることがわかってきた。一方で、ガラス転移における動的性質のスローイングダウンの背景には動的不均一性が関係し、これには構造の空間不均一性をともなうことが数値計算などから示唆されているが、現実の系では未だ観測されていない。本研究の目的は、こうした液体の中距離構造の発達を観測し、ガラス転移をはじめとする液体の諸現象における役割を明らかにすることである。 液体の中距離構造のひとつである局所安定構造が重要な役割を果たすと考えられる液体・液体転移について、これまでのところ、その存在が示唆されている物質は数多くあるものの、反論も多く、その存在が証明された例はほとんどなかったが、本研究により、分子性液体の亜リン酸トリフェニルにおいて、液体・液体転移が存在することを実験的に証明した。そのほか、ガラス形成物質の破壊現象に関して、ガラス形成物質を冷却したときにできる亀裂パターンの特徴的長さは、従来の破壊工学では、試料の厚みによって支配されると考えられてきたが、本研究により、亀裂生成時の試料内応力によって決まることを明らかにした。
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