研究課題/領域番号 |
16K05515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 暁久 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定研究員 (90706805)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ソフトマター物理 / 生体膜 / 界面相互作用 / 幹細胞 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
本研究では幹細胞表面に特異的に発現する糖鎖SSEA(stage specific antigen marker)分子に着目し、糖鎖の同種・異種分子間の相互作用による膜の力学特性と界面相互作用を定量的に測定することで、細胞接着における表面糖鎖の役割を解明する方法論と解析法の確立を目指している。本年度はまず、ヒトおよびマウスの幹細胞で特異発現する3種類のSSEA糖鎖を合成し、更にそれを(1)重水素化した脂質分子の親水基、(2)ビオチン分子、へと結合した分子の合成を行った。 (1)の糖脂質を用いては、糖脂質二分子膜の曲げ弾性率と圧縮弾性率を測定するために、フランスの中性子散乱実験施設ILLにおいて中性子非鏡面散乱法の実験を行った。その結果、脂質膜中の糖脂質分子濃度を高くしていくと膜間距離が広がっていくが、水和水中にカルシウムイオンが存在するときには糖脂質分子によって膜間距離が短くなるという結果が得られ、膜間相互作用に大きな影響を与えることが分かった。この結果について解析を始めており、糖脂質分子モル分率やカルシウムイオン濃度の系統的変化による糖脂質膜の力学特性および膜間相互作用の強さを定量評価している。 (2)のビオチンタグ付けされた脂質分子を用いては、精密に機能化された細胞膜モデルであるSupported Membranesにビオチンタグを介して糖鎖を結合し、その上にヒトiPS細胞を播種して接着面の時間発展を反射干渉顕微鏡を用いてラベルフリーで長時間観察することに成功した。本年度ではSupported membranes上の糖鎖密度と細胞培養液中の成分の最適化を行い、実際にデータ測定を開始した。 また、上記の反射干渉顕微鏡を用いたラベルフリーでの細胞接着測定の技術をもとに、超親水ポリマーブラシとヒト赤血球の相互作用を界面距離の時間揺らぎから定量し、ポリマーブラシの低摩擦性・防汚性を実証した論文を発表した(Higaki, ...Yamamoto, ...Tanaka, J. Phys. Chem. B (2017))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)の糖脂質を用いた実験は当初平成29年度に計画していたが、本年度において既にILLでのビームタイムを獲得することができたので、当初の計画を大幅に超えて研究を進展させることができた。 (2)のビオチンタグ付けされた糖鎖を用いた実験はほぼ当初の計画に沿って進めることができた。 さらに反射干渉顕微鏡の手法を水平展開することで当初の予定を超えた成果を収めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)の中性子非鏡面散乱実験からは十分解析可能なシグナルが得られたので、実際の散乱プロファイルと散乱強度関数の比較を行うことで各条件の膜のCailleパラメーターとde Genneパラメーターを解析し、そこから膜の曲げ剛性率と圧縮剛性率を一意に決定する。これにより糖鎖の分子構造がマクロな膜の力学をどのように変調するか、細胞接着に寄与する膜間相互作用の強さがどのように変化するかを明らかにする。(2)については当初の計画通り実験を展開し、細胞の生存率や接着面積の時間発展を追跡することで、糖鎖が力学的相互作用を通して幹細胞の接着に与える影響を物理的に解明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品費として計上している対物レンズが当該年度に取り扱い停止となっていたため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、特注品として仕様が類似した製品の発注について、カールツァイス社と打ち合わせをしている。
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