研究実績の概要 |
本申請では胚発生の過程で重要な糖鎖SSEAに着目し、膜の時空間揺らぎを測定することで、膜の力学的特性と膜間の界面相互作用に与える影響を解明する。具体的には、(1)中性子非鏡面散乱法と用いた糖脂質多層膜の曲げ剛性率と圧縮弾性率の測定と、(2)反射干渉コントラスト顕微鏡(RICM)を用いた糖脂質ベシクルと幹細胞の接着エネルギーの定量を通じて研究を進めてきた。 (1)については、フランス中性子実験施設ILLにおいて昨年度までに取得したデータの解析を進めた。その結果、糖脂質分子のモル分率とカルシウムイオン濃度に依存した多層膜の力学物性(曲げ剛性率と圧縮弾性率)の変化を定量した。 (2)については、糖鎖で修飾したsupported membraneの上に播種したヒトiPS細胞の接着をRICMにより可視化し、糖鎖の種類および分子間距離をnmオーダーで変化させたときの細胞接着面積を系統的に測定した。 一方、本研究を推進する中で得られた結果に着想を得て、以下の成果を国際誌に発表した:(A)コヒーレントX線を用いて細胞の表面構造と細胞内電子密度を数十nmオーダーの空間分解能で測定する実験・解析手法を、マラリア感染性ヒト赤血球を用いて確立した (Frank, et al., Scientific Reports (2017))。(B)ヤング率を可逆的に動的変化できる水和ゲル材料を開発し、この基板に接着する筋芽細胞C2C12の接着と細胞骨格構造秩序の変化を定量した(Hoerning, et al., Scientific Reports (2017))。(C)フッ化炭素直鎖分子が気液界面単分子膜において自発的に形成する直径数10nmオーダーのドメイン構造とその空間相関を、微小角入射X線散乱法を用いて解明した(Veshgini, et al., ChemPhysChem (2017))。
|