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2018 年度 実施状況報告書

細胞接着の物理の解明に向けた糖脂質膜と幹細胞の力学的相互作用の精密測定

研究課題

研究課題/領域番号 16K05515
研究機関京都大学

研究代表者

山本 暁久  京都大学, 高等研究院, 特定助教 (90706805)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワードソフトマター物理 / 生体膜 / 界面相互作用 / 幹細胞 / 糖鎖 / 中性子散乱
研究実績の概要

本申請では胚発生の過程で重要な糖鎖SSEAに着目し、これらの糖鎖分子が膜の力学的特性と膜間の界面相互作用に与える影響を解明する。実空間と波数空間の実験手法を駆使し、膜の時空間揺らぎをマルチスケールに測定する。具体的には、(1)中性子非鏡面散乱法を用いた糖脂質多層膜の曲げ剛性率と圧縮弾性率の測定と、(2)反射干渉コントラスト顕微鏡(RICM)を用いた接着エネルギーの定量を通じて研究を進めてきた。
(1)については、中性子実験施設ILL(仏・グルノーブル)でSSEA3およびSSEA4の多層膜構造からの非鏡面散乱プロファイルを測定した。糖脂質のモル分率またカルシウムイオン濃度を系統的に変化させたときに膜間平衡距離が変わることを見出し、膜間の垂直方向相互作用が変調されることが明らかになった。
(2)については、糖鎖で修飾したsupported membraneの上に播種したヒトiPS細胞の接着面をRICMにより可視化し、糖鎖の種類および分子間距離をナノメートルオーダーで制御したときの細胞接着面積を系統的に取得した。細胞遊走やコロニー形成におけるシングルセルの変形と運動を取得し、その自発変形のダイナミクスを解析した。
また、本研究の推進の中で得られた実験手法と結果に着想を得て、以下の成果を国際誌に発表した:(A)ヒト角膜内皮再生医療に用いられる培養角膜内皮細胞の接着力の評価と、「培養している移植用細胞の品質」及び「移植してからの組織予後」の両方を統合的に評価する物理指標の開発(Yamamoto et al., Nature Biomedical Engineering, accepted)。(B)フッ化炭素‐炭化水素テトラブロック分子が気液界面に自発形成するドメイン構造の形状および相関長の測定(Abuillan et al., ChemPhysChem (2019))。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(A)中性子非鏡面散乱については、前年度に計画されていたILLでの実験が設備導入計画のために延期となっていたが、当該年度に実験期間が振り替えられていたため、SSEA3およびSSEA4糖鎖分子に関する実験を行うことができた。現在これらの結果から、膜の力学物性である曲げ弾性率及び圧縮剛性率の定量的な解析を進めている。(B)RICMを用いた細胞接着の定量については、ジャイアントベシクルおよびヒトiPS細胞を用いた実験を当初の計画のとおり進められた。また、新たにピコ秒パルスレーザーに誘起された圧力波を用いて細胞接着力を測定する手法も加えることで、複数の物理学的リードアウトを用いて細胞接着を多角的に評価することができた。
また上述のとおり、本研究を進める中で当初計画していなかったいくつかの成果を得ることも出来た。

今後の研究の推進方策

(A)中性子表面散乱法を用いた実験では、ILLでの実験計画が1年遅れたのを受け、現在実験結果の解析を進めている。これまでに取得した実験結果からは、糖鎖の分子構造、リン脂質分子との混合比、溶液中のカルシウムイオン濃度といった変数が膜の力学物性に影響を及ぼすことが分かっている。そこで今後これらの結果を定量的に評価し、膜の曲げ弾性率および圧縮剛性率の変化を系統的に明らかにする。この結果と(B)RICMを用いた実験による結果を合わせて、「膜の時空間揺らぎ」「膜間の力学的相互作用」という指標を用いて糖脂質膜の接着力を統合的に明らかにする。糖鎖分子の弱い相互作用に起因する膜の力学的相互作用を物理的な指標を用いて記述し、膜面の分子修飾が膜接着に及ぼす影響を、膜の構造揺らぎという指標から評価する。
さらにこれまでの研究を推進する中で得られた着想から、中性子非鏡面散乱法を用いてフッ化ポリマーの多層構造の力学特性のフッ素鎖長依存性に関する実験も行い、温度・湿度による液晶相転移を含めた興味深い結果を多数得ることが出来た。これらの結果も今後まとめ論文として発表することを計画している。

次年度使用額が生じた理由

前述のとおりILLでの実験が延期され、該当年度に振り替えられた。この事情のため、当初の計画では該当年度が研究機関の最終年度であったが、本研究課題の1年間の延長申請を行った。これに伴ってデータ解析や関係する実験に必要な物品費用や、研究成果をまとめ、発表するための旅費および会議参加費と論文投稿料として予算を使用する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)

  • [国際共同研究] ラウエ・ランジュバン研究所/ストラスブール大学/欧州シンクロトロン放射光施設(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      ラウエ・ランジュバン研究所/ストラスブール大学/欧州シンクロトロン放射光施設
  • [国際共同研究] ハイデルベルグ大学(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      ハイデルベルグ大学
  • [雑誌論文] A Non-Invasive Physical Biomarker for Predictive Diagnosis of In Vitro Cell Sources and Restoring Human Corneal Endothelium2019

    • 著者名/発表者名
      Akihisa Yamamoto, Hiroshi Tanaka, Munetoyo Toda, Chie Sotozono, Junji Hamuro, Shigeru Kinoshita, Morio Ueno, and Motomu Tanaka
    • 雑誌名

      Nature Biomedical Engineering

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      To be assigned

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Long-Range Lateral Correlation between Self-Assembled Domains of Fluorocarbon-Hydrocarbon Tetrablocks by Quantitative GISAXS2019

    • 著者名/発表者名
      Wasim Abuillan, Mariam Veschgini, Salome Mielke, Akihisa Yamamoto, Xianhe Liu, Oleg Konovalov, Marie Pierre Krafft, and Motomu Tanaka
    • 雑誌名

      ChemPhysChem

      巻: 20 ページ: 898-904

    • DOI

      10.1002/cphc.201800967

    • 査読あり / 国際共著
  • [備考] Center for Integrative Medicine and Physics

    • URL

      https://cimphy.kuias.kyoto-u.ac.jp/

  • [産業財産権] 細胞評価方法、細胞評価装置、及び細胞評価プログラム2018

    • 発明者名
      田中(求)、山本、上野、羽室、木下、田中(寛)、戸田、外園
    • 権利者名
      田中(求)、山本、上野、羽室、木下、田中(寛)、戸田、外園
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      WO2018151223A1
    • 外国

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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