研究課題/領域番号 |
16K05517
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
肥後 順一 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 特任教授 (80265719)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遷移確率 / 自由エネルギー / 効率的サンプリング / カノニカルサンプリング / 速度定数 / 平衡定数 |
研究実績の概要 |
「多次元仮想系とカップルした分子動力学法」を応用する対象として、アミノ酸(アラニン)3 分子および 4 分子から成る二つの系を作成した。分子間には何の束縛条件も作用させておらず、自由に離合集散できるように設定した。3 分子系では、第一分子と第二分子の重心間距離を一つの反応座標に、第一分子と第三分子の重心間距離をもう一つの反応座標とした。つまり二つの反応座標が二次元の反応座標空間を作成し、この空間で構造探索を効率的に行った。4 分子系では、第一分子と第二分子の重心間距離を一つの反応座標に、第一分子と第三分子の重心間距離をもう一つの反応座標に、さらに第一分子と第四分子の重心間距離をもう一つの反応座標にとした。つまり、三つの反応座標が 3 次元の反応座標空間を作成し、その中で効率的構造探索をおこなった。そして、この多次元反応座標空間で自由エネルギー地形を算出した。 複数分子の離合集散を研究するには、複数の反応座標を導入するのが重要である。しかし、複数の反応座標を制御して効率的構造探索を行うのは、通常の効率的構造探索法では(理論上は可能であるが)実際には非常に難しい。したがって、これまでの効率的構造探索では反応座標は一個だけで行うのが普通である。しかし、そうすると、重要な構造が探索されないことが起こりやすい。一方、我々の「多次元仮想系とカップルした分子動力学法」では、このような構造探索が容易にできた。 以上の結果を論文にまとめ、現在専門誌に投稿中である(物理化学・計算化学系の雑誌)。審査員(reviewers)からコメントが来たので、そのコメントに従い原稿の修正を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
効率的構造探索法「多次元仮想系とカップルした分子動力学法」を使っての実際の分子系への応用が本研究の土台となるが、ほぼ終わった。複数のペプチド分子が水に溶けた状態で、ペプチド分子が離合集散する現象を、構造探索し自由エネルギー地形を算出した。離合集散はシミュレーションの間に何度も起き、十分な統計性をもって構造探索ができたことが示された。この結果を現在、科学専門誌に投稿中である。一方、状態間遷移確率の算定をまだ行っておらず、従って速度定数の算出には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
効率的構造探索法「多次元仮想系とカップルした分子動力学法」を応用して得られたデータから、状態変化の遷移確率を求める。多次元反応座標空間を機械的にメッシュに分割し、あるメッシュの中にいた系が、ある時間ののちに別のメッシュに移動する様をモニターし、その遷移確率(行列の形式を持つ)を算出する。「多次元仮想系とカップルした分子動力学法」は高効率の構造探索法なので、このメッシュ間移動を多数回観察できる。遷移確率行列に対して数学的な処理を行い、速度定数を算出する。 多数のスナップショットが必要であることから、追加的なシミューレーションを行う可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
私の所属は、1918年4月1日に大阪大学蛋白質研究所から兵庫県立大学シミュレーション学研究科に変わった。移動後に、学部内での様々な用件で多忙になることに備えて、なるべく出張を控えた。その結果、予算を使い切れなかった。 次年度は、必要な出張に予算を使用していく。
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